体育祭
雄英高校襲撃事件から少しして、雄英体育祭の時期が近づいてきた。個性の出現によってすっかり注目されなくなったオリンピックに代わり、雄英体育祭がこの国の最も盛り上がるスポーツの祭典となっているらしい。
一高校の体育祭がそのようなイベントととなるとは。
それに合わせ、2週間にわたって授業がなくなり、生徒たちは体育祭に向けて準備を行うことになった。
***
襲撃を受けておきながら、とは思うシオンだが、燃える鋭児郎を見ているとチャンスがつぶれなくてよかったとも思う。体育祭はプロヒーローにアピールする場であり、将来に直結するそうだ。
「あー、くそ、どーすっかなぁ」
自室にて、鋭児郎はベッドに寝転がり頭を抱える。襲撃事件は鋭児郎含め当事者たちにはそう深刻に受け止められていないのか、皆体育祭に向けて張り切っていると聞いた。
鋭児郎も準備期間にどうするか考えているのだが、詰まっているようだ。
「体術鍛えるんじゃないの?」
「まぁな、個性は今更どうしようもねぇからな」
個性の使い方の訓練をするべきなのは分かっているようだが、それをどうやるか迷っているようだ。
「遠距離攻撃型のヤツらにも通用するようにしてぇんだけどよ」
「うーん…つまりこちらの弾薬が切れて銃撃できない状況で、相手がライフルを所持しているような場合ってことだよね」
「そんな感じ」
どうしても戦場での例えになってしまうシオンの癖にはもう鋭児郎も慣れたらしい。特に動揺することもなく頷く鋭児郎に、シオンは過去の記憶を遡る。自分がそういう状況にあったとき。
「なんか盾になるもの掲げて走って接近、無理やり接近戦って流れだったなぁ。よくそこらへんの死体を自分の前に担いでそれで銃弾受け止めてた」
「お、おう……まぁ、とりあえず強引に接近に持ってくしかねぇよな」
「でも鋭児郎は硬化できるんだし、捨て身の接近がわりと簡単だよね」
「そりゃな、相手が許してくれりゃあ行ける」
「むしろ移動から戦闘へのフェーズ移行時のが問題じゃない?そこで隙見せたら最後だよ」
「…確かに」
鋭児郎の個性は、個性単独の攻撃を持たない代わり、個性を応用した攻撃の破壊力が各段に違う。鉄板すら砕く硬さはシオンも驚いた。接近さえできれば、あとは畳みかけて相手に離れる隙を与えないようにしなければならない。
「攻撃あるのみ、相手に動かせる隙を与えず畳みかけるべきだよ」
「なるほど…」
「練習する?僕も一応、銃火器が使えないときのために体術はできるよ」
「ほんとか!」
そこでシオンは、鋭児郎の訓練に付き合うことにした。一緒に日々のランニングなどをやっていたため、体は鈍っていない。
さっそく外に出て、2人で近くの公園に準備運動がてら軽く走り、広く空いたスペースで相対して立つ。
「じゃあ、とりあえず殴ったり蹴ったり好きに攻撃してきて」
「え、マジで?」
「うん。僕言葉で説明するの得意じゃないから、体で覚えて。軍は基本そうだったよ」
「可愛い顔してやること軍隊式スパルタ教育なのほんと痺れるぜ…!」
実は脳筋なシオンは構えて、どこから来てもいいように意識する。鋭児郎は面食らいつつ、いつものシオンの軍隊式訓練に食らいつこうと同じく身構えた。
そして、すぐに硬化して重そうなパンチを繰り出してきた。それを簡単に避けると、さらに左フック、前蹴り、回し蹴り、アッパー。すべて最小限の動きで避けてから、がら空きの腰に瞬時に蹴りを入れた。
「硬っ…!」
しかし硬化していた胴体は非常に硬く、蹴りを入れたシオンの方がダメージとなる。それを見越して軽い蹴りにしておいてよかった。
「大丈夫か!?」
「心配してる暇あるの」
鋭児郎は呻くシオンに途端に心配そうにしたが、すぐに鋭児郎の後ろに回り込むと、その首筋に手刀を落とした。そんなところを硬化させることはなかったのか、反応に遅れた鋭児郎はそれをもろに食らい、「うぐっ…!」とうめく。
さらにその隙に背中に蹴りを入れて、回し蹴りを腹に決める。
「ぐっ、はぁ…!」
「一発食らって気が緩むとか死にたいの。相手は殺しに来てるんだから、一瞬でも油断したら即死だよ」
「…別に殺しには来てねぇだろうけど…でも、一発入れられて緩んじまうのはまずいな」
「早く立って。2秒したら蹴るからね」
「くっそー…!」
そうやって、2週間にわたってシオンは鋭児郎を扱いた。途中でめげることなく、シオンのスパルタについてきたのはさすがだと思う。
ただ、鋭児郎も途中から「イエッサー!」と返し始めたので、2人ともだんだん疲労でおかしくなってはいたのかもしれない。