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いったい何事かとシオンは冷静に車内を見渡した。
バンの中には男が2人、運転席とシオンを縛る者だ。銃火器の類はない。目に見えるところにナイフなどもなかった。後ろ手に両腕を拘束され、足もひとまとめにされれば、動けなくなる。
男を見上げると、中年の痩せ気味の男はニタリと笑った。
「大丈夫、怖がらなくていいよぉ…」
「全然声出さないな」
運転席の男も中年くらい、こちらは小太りだ。それないに清潔感はあるので、身代金目的とは思いにくかった。
何より、男たちの舐めるような視線には覚えがある。
「ひひっ、近くで見ると本当にきれいな顔してるなぁ…!」
「金髪に紫の目なんて、まるで天使みたいだな。興奮してきた…」
やっぱりか、とシオンは内心で辟易としながら思った。
男たちの目的はそういう下賤なもので、下卑た笑みはよく見たものだ。
シオンが故郷の商人の屋敷で、性奴隷扱いされていた頃に、腐るほど見た。あの商人の男は街ごと焼かれたはずだ。
日本にもこういうヤツがいて、こういう犯罪を犯すのだと思うと、人間とはどこも変わらないものだと心底思う。
ちらりと窓の外を見ると、黒く見えにくいが、見慣れた街をどんどん離れようと動いているのが分かった。高速道路に乗るつもりだろう。
そのまま山間部などへ連れていかれると正直かなり困る。逃げようにも、バンのスピードは時速80キロほど、中央分離帯が見えるから飛び出すこともできない大きな道だ。
まぁいざとなれば、自分を抱く男たちが油断した隙に意識を落とせばいいだろう、とシオンは落ち着いて考えた。
「なぁ、もうちょっと味見してもいいだろ…?」
「味見だけだぞ、くそ、俺が運転じゃなきゃよ…」
「ひひっ、じゃあ、いただきます」
男はそう言うと、シオンのシャツのボタンを外していった。律儀に外しているのは、雰囲気でも出しているつもりだろうか。
そしてシオンの肌が露わになると、男の興奮は最高潮に達したらしい。シオンの白い肌に、勢いよくむしゃぶりついてきた。
途端に、男の熱い舌が肌を舐め回す不快な感触と。吐息が当たる気持ち悪さが沸き上がる
大丈夫、ほんの数年前に毎日のように経験したことだ、と自分に言い聞かせる。
じゅる、と胸元を音を立てて吸われると、感じたくもない快感が強制的に呼び覚まされる。
「っ、」
声こそ出さないで済んだが、息を詰める。男はにたぁ、と笑うと、シオンの口元に顔を寄せて来た。キスでもするつもりだろうか。
男の顔が眼前に迫った、その瞬間、シオンの脳裏にパッと、鋭児郎の顔が浮かんだ。
人好きのする爽やかな笑顔と底なしの優しさ、抱き締めてくれる温もり。
無意識に思い出さないようにしていたそれらを意識してしまえば、それが最後だった。
(…嫌だ…嫌だ、嫌だ嫌だ!気持ち悪い、もうこんな目に遭いたくなかったのに…!)
強烈なまでに浮かぶのは、鋭児郎への強い想い。よく分からない感情だったが、それを意識すると、目の前の男が不愉快で堪らなくなる。
我慢できると思ったのは、強がりでしかなかった。本当は嫌でしょうがなかった。
自然と思ってしまう。
(鋭児郎、鋭児郎…!救けて、鋭児郎ッ!!)
心の中で叫びながら、シオンは唇を硬く引き結んで、男のキスを深く受け入れないよう必死に目をつぶった。