5


鋭児郎が向かっている、それだけでシオンは救われたような気になった。1人じゃないという意識だけでまったく違うし、何よりこうして言葉が、気持ちが繋がっていることに安堵した。すぐ隣にいてくれているようだ。

だから、男たちに相変わらず体をまさぐられ舐め回されようと、殴って意識を落とすような真似はしなかった。まだ、そうしたことをしていいときではない。
それを指示した鋭児郎はとても苦しそうだった。鋭児郎がそういう気持ちになる必要はないのだが、そういうところがシオンは好きだった。

国道で渋滞に掴まったバンは、外からは中が見えない窓になっているようで、運転席の男と痩せ気味の男が入れ替わってまた体をもてあそばれる場面もあった。

今はまた運転を変わり、元の男がシオンにのしかかっている。
すると、待ち望んでいた声が脳内に響いた。


『シオン、今どこらへんにいるか分かるか!?俺たちはもうすぐ着く!』

『えと…四丁目交差点』

『よし、予想通りだな…そろそろ右折するはずだから、その道で飛び降りられるはず!』

『分かった』


シオンは心の中で頷くと、こっそりバレないように後ろ手を縛るロープから手を抜く。脱臼させずとも、こんな甘い縛り方では捕虜など捕まえられない。普通に縄ぬけすると、自由にした手で足も緩める。無理やり足を広げれば解ける仕様だ。
あとは右折した瞬間に目の前の男を気絶させ、扉を開けて飛び出すだけだ。


『五丁目交差点を右折した道に俺がいる!扉開けて俺が見えたら来い!』

『了解』


すぐに五丁目交差点というのが見えてきて、ウィンカーが出る。右折するようだ。この道を出れば、すぐに高速道路に出る。
車が曲がる、その重力がかかった瞬間に、シオンは足を開いてロープをほどき、瞬時に男の首筋に手刀を落として沈めた。男は声も出せずに意識を失う。運転席の男は遅れて気づき、「は!?」と声を上げた。
シオンはすぐにスライド式の扉のロックを解除して扉を開いた。2車線道路なので、すぐ目の前を飛ぶように歩道が過ぎていく。通行人はそれなりに多く、扉が全開のバンに気づくと目を見開いていた。

そして道の先、コスチューム姿の鋭児郎が見えた。一度家で見せてもらったことがある、逞しい上半身を晒すような格好いい姿だ。
鋭児郎は歩道の道路寄りの立ち、両腕を大きく広げていた。


「シオンッ!!!」


まるで久しぶりに聞いたかのような生声に、シオンは気が緩みそうになるのをぐっと堪える。
そして、運転席の男が焦る怒声を無視して、鋭児郎のところにすれ違いざま飛び出した。一気に慣性を抜けた重力がかかるが、すぐに鋭児郎の腕の中へ飛び込んだ。

鋭児郎はわざと転んで受け身を取ることで衝撃を逃がし、シオンはその胸元に抱き込まれる。

直後、大きな衝撃音が響いてきた。そちらを見ると、4本の腕を持つスーツ姿のいかつい男が、バンの運転席を突き破って強制的に車を停止させていた。バンが他の車に当たらないよう、金属の肌をした男がバンを受け止める。あれは確か、体育祭で鋭児郎と戦った鉄哲という生徒だ。つまり、あの4本腕の男はフォースカインドというヒーローである。
職場体験から、ヒーローととともに直行してくれたのだ。


「えい、じろ…」

「シオン、ごめんな、遅くなってごめん…!」

「ううん、来てくれてありがとう…鋭児郎」


鋭児郎は悔し気に言ったが、ついに安心していい場所である鋭児郎の腕の中に来れたシオンは、まったく気にしていない。その肩口にすり寄ると、ぎゅっと抱き付いた。


「鋭児郎が声かけてくれたから耐えられた。諦めないでいられた…鋭児郎とこうしてるときが、一番、安心できる」

「シオン……」


道行く人々がざわつき、警察のパトカーの音も近づいてくる。そんな喧騒も、2人とは別のところにあるようだった。
そこへ、シオンの背中に温かいものがかけられる。体を離して見上げると、フォースカインドがシャツ姿になっていた。ジャケットをかけてくれたらしい。


「シャツが無事なら着て置くといい。これから警察と対応する…よく頑張ったな。それにしても鮮やかな手刀による昏睡だ、うちの事務所が歓迎したい戦力だ」


そう笑って言ってくれたフォースカインドはとても格好良く、鋭児郎が憧れるのも無理はない、とシオンは納得した。深く礼を言ってシャツをきちんと着直す。


こうして、ほんの数十分ながら衝撃的な事件は幕を閉じた。


31/40
prev next
back
表紙に戻る