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人込みを射的の列から離れると、シオンは鋭児郎にゲーム機を渡した。
「はい、これ」
「え…くれんのか?」
「うん。鋭児郎が欲しいって言ったから」
「…俺が欲しいっつったから、シオンは取ってくれたのか」
「そうだよ」
何を当たり前のことを聞いているんだろうと首を傾げる。ゲームなどシオンは興味がない。ただ、鋭児郎が少しでも欲しいと思って、それをシオンが叶えられるのなら叶えたいと思った。ただそれだけだ。
「そっか…ありがとな、すっげー、嬉しい。本当に嬉しい」
鋭児郎は、ちょっとだけ普段とは違う笑顔で言った。そのニュアンスはあまりよく分からなかったが、エンパスを使うまでもなく、鋭児郎が心から喜んでくれているのが分かっただけで良かった。
「鋭児郎が嬉しいなら僕も嬉しい。鋭児郎が楽しいなら僕も楽しいよ」
「っ、シオン…!」
鋭児郎はなぜか極まったように言うと、シオンを抱き締めた。人込みの往来で思い切り抱き締められ、さすがに人の目が気になる。だが、あまりに人で賑わっているからか、あまりこちらに目を向ける人はいないし、そもそも祭りという非日常だからか、気にしているようでもなかった。
鋭児郎もある程度はわきまえているので、すぐに離れると、シオンの腰に手を回すだけに留める。ずっと距離感が著しく近しい日々が続いているからか、もはや2人ともこれくらいの近さは当たり前どころか控えめだった。
「うし!食いもん制覇すんぞ!」
「うん」
まず2人は、最寄りの焼きそばの屋台にやってきた。2人分頼むと、鋭児郎は「これが主食な」と笑った。これをベースに、他に食べるものは2人で分けたりするのだろう。
焼きそばの屋台の店主が暑そうにしながらパックに入った焼きそばを渡すと、鋭児郎も暑さが気になったらしい。浴衣の袖を限界まで捲り、肩の先から腕をすべてさらけ出す格好になった。よくシャツでもこうしているので、鋭児郎らしい恰好だと思う。
太い二の腕の筋肉が動くたびに盛り上がるのは見ていて男らしい。
「あとは…たこ焼きだろ、イカ焼きはどうすっかな…」
「はしまき…」
「おう、そうだったな!じゃあしょっぱい枠はとりあえず残りはたこ焼きとはしまきにしとくか」
「甘い枠もあるの?」
「あぁ、綿あめとか、林檎飴とか、あとは…」
鋭児郎は周りを見渡して、はたと立ち止まる。その視線を辿ると、チョコバナナとあった。チョコレートとバナナを合わせたものだということは容易に理解できた。
「チョコバナナだって、美味しそう」
「そ、そっか!!美味いぜ!!」
「じゃあ食べたい」
「よし!シオンが食いたいなら仕方ねぇよな!うん!」
「…?」
いったいどうしたのかと思うも、鋭児郎は挙動不審なわりにやたらテンション高くチョコバナナを買っていたし、その感情はとても期待に溢れているようでもあったからシオンは気にしないでおくことにした。
チョコバナナを1本買った鋭児郎は、少し人込みから離れた木の側まで行くと、シオンに向き直る。
「シオン、」
「うん?」
「俺が食べさしてやっから」
「え…うん……」
なぜか真剣な表情で言うので頷くと、鋭児郎はチョコレートにコーティングされたバナナを差し出した。カラフルな小さいチョコレートもまぶされた美味しそうなバナナに、シオンはわくわくとしながらかぶりついた。噛み切ろうとすると、なぜか鋭児郎はバナナを途中で引き抜こうとした。
これでは食べられないので、ついシオンは鋭児郎の腕と手を軽くつかんで自分で支える。そしてバナナを口に含んで咀嚼した。
もぐもぐとしていると、鋭児郎はふーーーっと長く息をついた。何か大きなことを成し遂げたかのような満足感の籠ったそれは気にならないでもなかったが、チョコレートとバナナの組み合わせの美味しさにそれどころではなくなったシオンは、そんな前かがみの鋭児郎をよそにチョコバナナをひたすらもぐもぐとしていた。