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そうして甘いもの枠として、他に綿あめと林檎飴を買った2人は、たくさん買い込んだので境内の奥に進んだ。
参道を進むと屋台の列が途切れて、灯篭が本堂に向けて連なるところに出る。
その沿道には石の柵があって、そこに人々が腰かけていた。その一部に加わる様にして2人も座る。

焼きそばにたこ焼き、はしまき、綿あめに林檎飴とおいしそうなものが並ぶ。


「…味濃いね」

「だろ?暑くなるとこういうのが欲しくなるんだよなぁ。あ、茶買っといたから飲めよ〜」


鋭児郎はいつの間にやらペットボトルのお茶を買ってくれていて、そうした気配りはさすがだと思う。
何者か気になっていたはしまきはお好み焼きにも似たソース系の食べ物で、シオンはその美味しさに名前を覚えずにはいられなかった。たこ焼きは熱すぎて食べられなかったので、焼きそばとはしまきを食べてからに決める。

箸を進めていると、ふと、2人に声がかけられた。


「おーい切島!!」

「鋭ちゃん!!久しぶり!!」


参道から手を上げてこちらにやってくるのは見知らぬ男子数人と女子数人。浴衣姿で、手に手に金魚をいれた袋を下げていた。


「おお!!久しぶりだな!!」

「てかなんだその頭!!イメチェンかよ!!」


わいわいと騒ぐ様子からして、鋭児郎の元同級生だろう。鋭児郎は座ったままで、シオンは立ち上がって駆けて行かないのを少し不思議に思った。鋭児郎ならそれくらいしそうだ。
結局友人たちの方がこちらまで来た。


「体育祭見てたぜ!そんときから髪やべえって思ってたけどやべぇな!」

「おう、いかすだろ」

「あはは!にしてもすっげーな、ほんとに雄英行って、しかも体育祭ベスト8だろ!?」

「切島君めっちゃかっこよくなったねぇ〜!」

「中学のときからカッコイイって思ってたけど〜」

「おい有名人になったからって態度変わりすぎだろ女子ィ〜」


楽しそうだな、と思いつつ箸が止まらない。はしまきが美味しすぎるのだ。
そんなシオンにはもちろん友人たちも気づいているようで、鋭児郎に「で、」と視線を向ける。


「お隣の子は?留学生?」

「あー…」

「?シオン・S・ギマゼトディノワです。ソグディアナから来ました」

「えっ……」


言いよどむ鋭児郎は、どうしよう、というのが明らかだった。いったい、友人たちに会えたのになんでだろう、とシオンは思いつつ、聞かれたので答えた。途端に友人たちの顔が強張った。
当たり前だ、日本でもソグディアナの惨状は悲劇として(対岸の火事として)伝えられている。

いわゆる難民なわけだが、それを本人に面と向かって言えないようだ。まあ、それもそうだろう。


「僕の母は日本人だったから、知人の伝手で鋭児郎の家に置いてもらってるんだ」

「そ、そうなんだ…」


シオンは他意のない言い方をしたつもりだが、この言葉だけで、きっと空気を読むことに長けた彼らなら、シオンの母親が平穏では済んでいないことを察しているはずだ。
それは確かに、変わらず200年の「戦後」を生きる日本の人々にとっては普通ではないのだろう。空気を悪くしてしまったかもしれない。それに思い至らなかったと反省すると、鋭児郎はおもむろに手をぱしんと合わせた。


「わり、今日は2人で来てんだ。また今度遊ぼうぜ」

「あー…そだな!悪いな邪魔して!」

「うん、シオン君も楽しんで!」


友人たちは頷くと2人に手を振って離れていった。良かったのだろうか、と思って鋭児郎を見やると、鋭児郎はふっと微笑んだ。


『俺は今、シオンといたい』

「っ、」


真正面からそんなことを真摯に、しかも心に直接言われては、シオンだって少しドキリとする。


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