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少しだけ微妙な空気になってしまったが、2人で残りを食べ進めるうちにだんだん元の空気に戻っていく。

本当は、「良かったの?」と聞きたかった。せっかく久しぶりに会えた友人なのだ、一緒に過ごす時間は大事だと思う。だが鋭児郎は、それでもシオンの時間を選んだ。
彼らが来たときから、鋭児郎は純粋に嬉しいという気持ちよりも、困っているようだった。普通、友達に会えたら嬉しいはずだ。

やはり、シオンは自分が鋭児郎の邪魔をしたのではないかと思い、聞いてみることにした。


「…さっきの、中学とかの友達でしょ?いいの、僕は一緒に住んでるんだし、なかなか時間取れないのに」

「あぁ…うん、いいんだ別に。なんつかさ、中学って、単純に住んでる地域しか共通点ないのに一食汰にされっから、会いづらいヤツもいるもんなんだ。高校は選んで行くところだから、集まるヤツはどこか自分に似てるもんでさ。そういうヤツらとの時間を知ると、中学の関係ってちょっと、気まずくなるときもあんだ」

「ふーん…」


学校に行けなかったシオンには分からない感覚だった。

だが、だからと言って鋭児郎が彼らと一緒に遊ぶとなれば、恐らくシオンは邪魔するのを避けるために先に帰っただろう。それは鋭児郎を取られたような気になって、ちょっと嫌だと思った。
自分勝手なようで、シオンは少し自分が汚く思える。

すると、鋭児郎はそんなシオンの機敏に気づいた。


「シオン?どうかしたか?」

「……もし鋭児郎があの人たちと一緒に行ったら、なんか、やだなって思って。でも鋭児郎がそれを望んでるのに僕がそうやって鋭児郎を送り出せないの、なんか自分勝手で…」

「シオン…」


鋭児郎に隠し事はしたくない。シオンは素直に思ったことを打ち明けた。どうせ、この個性では隠せるはずもない。
鋭児郎はそんなシオンの言葉を聞いて驚いたようにしたが、すぐに破顔した。


「…そっか。俺はそう思ってもらえて嬉しいぜ、そんだけ俺のこと好きだっつーことだろ?」

「……うん」

「そこで否定しねぇシオンがほんとに可愛いな…っと、そろそろ時間だ」


鋭児郎もシオンに嘘はつかない。本心で言っているので、シオンも鋭児郎がそういうならとそれ以上は気にしないことにした。
そこで鋭児郎は立ち上がり、ゴミをまとめだす。帰るのかと思ったら、そうではないらしい。


「花火あるっつったろ。特等席あんだ、今から行けば間に合う」


鋭児郎は先ほどから一転してわくわくとしていた。シオンも気分を変えて、その背中について行った。


2人は神社を出て、そこからそう遠くない丘の麓にある寺にやってきた。
神社で祭りをやっていることもあるし、夜に寺にやってくるような者もおらず、境内に人はいない。
その裏手には、寂れた階段があった。


「なにここ」


街灯もない暗い階段は不気味だ。いったいどんなところなのか。


「昔な、この寺は丘の上にあったんだよ。でもそれだと参拝しづらいからって下に移転してさ。その旧境内に続く階段なんだ」

「よく知ってるね」

「ガキんときは1人でも町中駆けまわってたからさ。探検気分で入ったの覚えてて、花火大会のときに試しに1人で行ってみたら、すげえ眺め良かったんだ」


鋭児郎はその子供時代のことを楽し気に話してくれた。そういう昔の話を聞けるのは、鋭児郎に近づけるようで嬉しい。
ボロボロの階段を月明りを頼りに進んでいくと、やがて開けた場所に出た。本堂があったのだろう土台だけが残る場所だ。その基礎の大きな石の上に立つと、夜空が拓けて見える。

その直後、腹に響く大きな音とともに、花火が打ち上げられた。それは夜空に大輪の花を咲かせる。


「うわ…!」

「なっ、すげぇだろ!」


本当に特等席だ。人がいるわけもなく、2人きりの場所。そこからは、街に撃ちあがる花火が一望できる。その鮮やかで美しい光の花は、爆発するときに聞き慣れた音を響かせる。
同じ爆発という現象なのに、シオンが母国で聞いたものは人を殺し街を破壊する兵器だった。銃だって、誰かを泣かせても笑顔にするものではなかった。

なんで、同じものでもこんなに違うのだろう。同じ人間なのに、道行く人が笑顔だけの空間が日本にはあって、死体が廃墟に転がる国もある。花火が鮮やかに夜空を飾るこの国から離れたところでは、死の花火が築き上げてきた街を、生活を、営みを、文化を、歴史を破壊する。
それは、ずっと昔から変わらない世界の現実なのだ。


「…鋭児郎は、いつも僕に綺麗なものや特別なものを見せてくれる」

「そうか?」

「うん。鋭児郎の隣は…世界で一番、温かくて、幸せな場所なんだ」


シオンの言う「世界」には、この国の人々が経験したことのない殺戮の空間を内包していることを知っている鋭児郎は、そんなシオンの言葉に穏やかな笑顔を返す。


「俺には、シオン1人しかまだ笑顔にできねえ。でも、それがどんなに大事なことか教えてくれたのも、シオンだ。俺にとっても、世界で一番息がしやすいのはシオンの隣だ」


戦争だ国家だ平和だということをよく考えるシオンだが、結局のところ、本質は人だ。人間1人が笑って幸せだと感じることは、たとえどんな時代や歴史であっても、何より尊いことなのだ。

無意識に、シオンは手を鋭児郎のものと重ねていた。夜空に咲く花束に照らされて、心がいっぱいになる心地よさに目を閉じた。


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