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そして連れらて来た保護地区とやらは、首都から東に50キロほどの村にあった。そこで、農業や牧畜の仕事を強制的にやらされるらしい。
起床から就寝まで管理された、まるで刑務所のような生活。しかも、ろくに食事もとらせてもらえず、たまに監視する「保護者」に遊びで暴力を振るわれるほどだった。それも殴る蹴るではない。これまで個性の使用を禁じていた国であったがために鬱憤を貯めていた者たちが、個性を使って嬲るのだ。

この国はあらゆる場面での個性の使用を禁じることで秩序を保つ珍しい国だったから、その反動も激しかったのである。

火傷を負うもの、凍傷を負うもの、骨折、失明は当たり前、殺してしまっても事故死として処理される。人権など存在しておらず、まだ牧畜されていた家畜の方がまともな扱いだったほどだ。
無個性の人々はなすすべもなく、ときに痛みで、ときに性的暴力で甚振られた。

そうした実態はNGOによって国連に摘発され、国連は新政権に対する人権侵害の是正勧告を出した。米国などは政権を承認せず、国連総会への代表権は新政権に与えられなかった。

そうやって外圧が高まると、さらに過激化していき、ついには優性個性保持者の資格を持つ者による無個性の人身売買が許可された。それも加護の共有にあたるという理論だ。


シオンはといえば、ひたすら苛酷な労働に従事し、時折暴力も受けた。同じくらいの子供は少なく、いてもすぐに死んでいった。個性の発現から世代を経るごとに無個性は減っているから、最も若い世代であるシオンくらいの年齢が相対的に少なくなるのは当たり前のことだ。
周りの大人たちに守られ、食べ物を分けてもらうこともあった。シオン自身、強くならなければと体作りに励んだ。

それから1年、12歳になる年の正月頃に、シオンは奴隷として買われた。東部の優性個性を持つ商人のところだ。

中年で小太りの男はいわゆる小児愛者、特にシオンは外見が珍しい薄い金髪と紫の瞳だったことや日系の遺伝もあったため、ミステリアスな感じだということで買われたそうだ。
そんな理由で買われた以上、その目的は想像するに容易い。
シオンは男に毎晩、性的な奉仕を義務付けられたのだ。

いつか殺してやる、との気持ちだけがあった。


やがてそこでも1年が経つと、状況が少し変化する。
東の隣国フェルガナ共和国が、敵対する南シベリア共和国の軍隊がソグディアナ共和国に駐屯し続けていることや、新政権が過激すぎて大量の難民が押し寄せているということで、ソグディアナ共和国に対して宣戦布告したのである。
フェルガナ共和国は国内の難民を組織化し、自国の軍隊と合わせてソグディアナへ侵攻。まだ残っていたトランスオクシアナ王国軍とも結んで、ソグディアナ共和国とホラーサーン共和国とを挟撃するように戦争が始まった。

フェルガナ共和国軍は強く、ソグディアナ東部の要衝を次々と制圧。東部の大都市であったシオンのいる街も陥落し、商人の屋敷も接収された。そこで、シオンはフェルガナ共和国軍に徴兵されることになった。
フェルガナ共和国軍は強いが、特にどこかから支援を受けているわけでもないため、常に人員不足の危険にさらされているからだ。そこで、少年兵としてシオンも軍に加わることとなった。

難民によって組織されたソグディアナ救国戦線軍に加盟して、日々訓練と実戦とを繰り返す。

13歳になった頃、戦争の中で、シオンは実は自身が無個性ではないのではないかということに気づいた。なぜなら、人々の考えていることが聞こえてくるからだ。聞こうと思って意識を集中させると、その人物の内心の考えが聞こえるし、感情も伝わる。
それを利用して、相手に先回りした行動をとるうちに、シオンは銃の腕も合わさって大きな戦績を上げるようになっていった。

思えば、父は相手の視界を盗み見る個性、母は相手の意識を方向を悟る個性だった。どちらも大したものではなかったが、その複雑な合成版なのかもしれない。
だからといって、今更新政権にそれを登録するつもりなどない。家族をバラバラにし、シオンに苛酷な日々を敷いた反体制派の人間を一人でも多く殺すこと、それがシオンにとって目下最大の目標だったからだ。


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