胎動


妊娠発覚からつわりの時期に至るまで、メンタルがぶれっぱなしだった応利だったが、妊娠6か月にはかなり落ち着いた。
つわりはほぼ治り、腹部の膨らみもかなり出て来た。その状態になってからさらに経つと、心身ともに慣れて、すっかり応利は元来のふてぶてしさを取り戻した。

上鳴には「ツッコミにキレが戻ったな」と言われ、芦戸にも「表情戻ったね」と喜ばれた。
勝己も一安心したようで、甲斐甲斐しさはそのままだが勝己自身の心も落ち着いたらしい。

見慣れた病室での2人もすっかり余裕を取り戻した、そんなある日。


「…っ、んん…?」

「どうした」


なんだか軽い衝撃のようなものがあった気がして、応利は腹に手を当てて訝しむ。勝己は素早く着替えを入れ替えていた棚からこちらを振り向いた。そういうところはさすがだ。


「なんつか…え、動いた?」

「胎動か」

「あー、あれか。そうかもしれ、あっ、」


再びその感覚がしたので声を出すと、さっと勝己が寄って来た。そして、応利の腹に耳を当てる。


「うわ、よくあるヤツだ」

「うるせぇ聞こえねぇだろ」

「ええー……」


ドラマなどでよく見る夫の体勢だ。勝己がやっていることになぜか感動のようなものを覚えたが、勝己に一蹴される。もうすっかり2人の言動はこういう元のものに戻った。

しばらく待機していると、また動きが感じられた。蹴るようなものではまだないが、動いた、と分かる。
勝己はそれを感じ取れたからか、カッと目を見開いた。


「動いた」

「いやそんな気迫で言うことかよ」

「おいもう聞こえてるかもしんねぇんだ、言葉遣いには気を付けろやアホ」

「え、それボケ?もうボケの領域だよな?」

「ボケてねぇわクソが」

「お里が知れるんだよなぁ…」

「こいつのお里の近場だろうが」

「この子の口悪くなったら親の顔見る手間省けるわ」

「鏡見りゃいいからな」

「この野郎、あっ、」

「「動いた」」



***



そうしてゆったりと日々が過ぎるうちに26週、エコー写真を撮ったときに、ついに性別が判明した。


「おや、これは…」

「え、どうしたんですか」

「男の子ですね」

「えっ!」


そのときは応利1人で受けていたのだが、医者から男の子と聞いて、予想していなかった新事実に応利は驚いた。心臓に悪い。


「元気な子なんで結構動いてますね。それで、今回の写真ではちょうどおしりの方から写ってまして、これが男の子の証です」

「うわ、こんなくっきり…可哀想にこうやって晒されて…」


同じ男だからか、急にそういうシンパシーが沸いてくる。医者は少し呆れたようにしながらも、すっかり精神的に落ち着いた応利に安心したようでもあった。


「他は問題ありませんので、早くパートナーに伝えてあげてください」

「そうします」


スマホが使える病室なので、戻ってから応利は勝己に電話した。すぐに繋がり、ことを説明すると、「すぐ行く」と言って切られた。性別が分かっただけなのだが、いてもたってもいられなくなったのだろう。
妊娠してからというもの、勝己のこういう一面は初めて知ったもので、まだ新鮮に感じられた。

そして有言実行、3分後に勝己がやって来た。
がっと扉を開けて入って来た勝己に、応利はゆっくり振り返る。慣れたように勝己に肩を抱かれ、「名前、決まったな」と顔を見上げた。
実は、もう男女それぞれに名前を用意してあった。勝己が考えた名前で、応利はそれがいい、とすぐに思ったので即決された名前である。


「……大希」


勝己が発した名前は、これまで候補としての固有名詞だったが、今、はっきりと呼びかけるニュアンスを持った。初めて、名前を呼んだのだ。


「じゃあ、俺は爆豪になるわけだ」


子供を産むにあたって、やはり籍を入れる方がいいだろうということで、2人は結婚することにしていた。同性婚はできるようになって久しい。夫婦別姓も可能だが、子供のためにそこは揃えることにした。
ただ、どっちがどうするか決められなかったので、男の子だったら勝己に婿入り、女の子だったら応利に婿入りというような形にしたのだ。
いよいよ形になっていく実感からか、自然と2人はそっと唇を重ねていた。


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