そういう一面


出産から3日、退院の日となった。通常は1週間ほど入院するのだが、応利の場合は元から母乳は出ないので、ミルクの与え方や作り方、おむつの替え方、記録のつけ方など様々な講習だけ受けて退院となる。
いたって応利は健康で、大希も問題なしという診察あってのことではあるが、応利がヒーローでもともと丈夫なのもある。
欧米の女性は出産翌日に職場復帰すらあるのだ、そこはもう個人差でしかない。

すでに応利の出産機構はすべて消失している。すべての発端となった、性転換事件の犯人こと姉さんの個性が解けたためだ。乳房をその個性によって生み出し、完母で育てることも可能ではあるが、今時様々な形がある。女性にも母乳が出づらい体質の人がいるわけで、それにこだわる必要はないのだ。最も重要なことは、それぞれの人に合った形を選択することで、世間一般の言説をうのみにすることではない。
もともと男性どうしである2人だ、今更そこにこだわることはしなかった。

ちなみに、ミルクもおむつも、生理用品すべてが最高級のものを勝己が取り揃えているとのことだ。CMに出る代わりに無料でメーカーから送られてくるらしい。
「使えるモンは使う主義だもんな」と応利が言ったところ、勝己は煮え切らない返事をした。そして言ったのが、「いや、俺たちの子供がかわいくねぇわけねぇだろ。CMで全国に見せびらかさねぇとだろが」というもの。
金はあるのだ、無料であることが目的なのではなく、単にCMに出したかっただけらしい。どうりで動画サイトのおすすめ欄にやたらおむつのCMが出てくると思った。

子供ができてから、勝己の意外な側面をこれでもかと見せつけられる応利である。

そんなことの相談や、他の様々な話もこの数日間で済ませたうえで、今日、退院を迎えている。
勝己はメディアに退院日を通告していたため、病院の正門前には多くの報道陣が詰めかけている。塀の外側にはファンらしき人々の姿もあった。
まるで王室の出産のようだ。

すべては2人の同意の上。応利は駐車場に止められた自家用車に先に乗り込み、毛布にくるまれた大希を抱える。病院の人々にはすでに深く礼を言ってあり、勝己ですら頭を躊躇いなく下げていた。その姿に涙ぐむ看護師たちが印象的だった。

その勝己は、今正門に向かい、報道陣の簡単なインタビューに答える。その内容は、車の中で応利はカーナビのテレビによって見ることができた。
画面の右上には「爆心地・パスカル無事に出産、本日退院」という見出しがある。多くのマイクが向けられる空間に、勝己が泰然と立った。いつも通りの不敵な感じだ。すぐ近くのことなのに、なぜか生放送で見るとは不思議な感じだった。


『ご出産おめでとうございます』

『おう』


すでに性別と名前は明かしているので、出産の様子や現状など基本的なことに勝己は淡々と答えていく。
やがて、記者から『今後のご予定は』と聞かれた。


『近いうちに挙式をする。結婚するからな』

『そ、そうなんですか!!』


このことはまだ言っていなかった。あまり情報を多く出すと余計に世間を騒がせてしまうからだ。記者たちがざわめくのが分かる。


『身内だけでやることも考えたが、喜べや、お前らメディアも呼んで盛大に執り行ってやる』

『なんと!それはどういった御心境で?』

『ひとつは自分たちの個人的な理由、もうひとつは社会的理由だな。メディアも呼ぶのは後者の理由が大きい』


これも、2人で話したことだ。
そもそも大希は、2人の計画にあった子供ではない。そればかりは事実だ。偶然の重なりによって生まれた。2人は奇跡だと思っているし、そう思えばそれで良いが、大希が大きくなったときにどう思うかは別である。
そこで、この先大希が成長し自身の出生について知ったあと、2人がどんなに幸せな中で大希を生んだか示したいと思った。それが、ちゃんとした結婚式をする理由だ。

メディアを呼ぶのは、依然としてマイノリティーとして家庭を持つ、あるいは持とうとする人々に対して、2人なりの幸福を証明するためだった。同性でも、男性妊娠でも、またはそれに準じるような背景を持って生きる状況でも、ちゃんと幸せになれるのだと、少しでも2人が、いや3人が証明できればいいと思った。それが、ヒーローとして子供を持つに至った2人なりの形のない社会貢献であり、応援してくれた世間への感謝でもあった。

と、そこまで粛々と勝己は話したところで、最後にいつもの不遜な笑みを浮かべた。


『ま、俺らの幸せを世に放映できるんだ、ありがたがれや』


ドヤァ!という効果音が目に見えそうな笑みだった。そんな勝己の「幸せだぜいいだろ」というのが丸わかりな様子に、応利は車の中で苦笑する。勝己をよく知る者だちからすれば顎が外れそうなものだろう。
そのあとは、詳細は書面で伝達することなど事務的な回答を勝己は続けた。最後に、女性記者から質問が投げかけられる。


『お子さんについて、自分とパスカルどちらの性格に似て欲しいですか?』

『パスカルに決まってんだろ』

『そうなんですか、我々としては少し意外に思います』

『好きになったヤツに似て欲しいモンだろアホか。その方が幸福2倍だろ』

『あー…はい、なんかもう、お腹いっぱいです…』


終始惚気続ける勝己に、ついに記者たちがギブアップした。勝己は機嫌よく報道陣の前を後にする。

ちなみに、応利も車内でギブアップしていた。


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