happier than anything
生後5か月が過ぎた頃、いよいよ赤ちゃんの成長にとって重要な時期がやって来た。当然ながらそうした知識を習得済みの勝己は、部屋をそれ用に作りかえていた。
角のスポンジはもちろん、高さ1メートル以内のすべての可動式のものがリビングから消え、他の部屋への入り口には柔らかいが頑丈な柵が設けられた。空気清浄機がフル稼働し、あえておもちゃを椅子やテーブルなどに置いた。
この頃から、赤ちゃんはハイハイやつかまり立ち、早ければつかまり歩きなどを開始するためだ。もちろん個人差は大いにある。ただ気を付けるべきことが多いので、勝己によって再度迎撃態勢が見直された。
ずっと家にいるのは応利であるはずなのに、気が付くと勝己によって模様替えされているのはさすがとしか言いようがない。
勝己はこの頃からだんだんと休みを取る時間を増やすようになった。手がかかるようになるためだ。勝己の事務所であるためそういうことは簡単だが、切島たちに迷惑がかかる。しかし彼らはまったく気にせず、むしろ勝己が休めるよう積極的に仕事をしてくれていた。
復帰したらバリバリ働けるよう筋トレを続けつつ、応利は頻度が増えた昼寝の合間に大希の運動量を増やすべく構う時間を増やした。
今日は勝己も休みで、2人でリビングにて大希に付き合っている。
ぷくぷくとした腕が盛んに宙を切るのを見ていると、美味しそうだな、なんて思ってしまう。その衝動のまま、応利は大希の頬に顔を寄せた。
口をキスするようにすぼめて、掃除機のように息を吸い込む。そのままぷくぷくとした頬に近づくと、突然、その柔らかい頬がズボッ!と応利の唇に吸い込まれた。
その勢いの良さに、思わず応利は噴き出す。
「ぶはっ、ちょ、やば、何今の…くくっ…!」
くすくすと笑っていると、大希も楽しかったのかキャッキャッと笑い出した。
生後3か月から社会的微笑と呼ばれる、両親の笑顔に反応して自発的に笑う笑顔が見られるようになったが、最近は声も上げるようになった。笑うようになったらリアクションを取って、五感を刺激することが重要だ。
応利は笑う大希を更にくすぐり、笑い声を大きくさせた。先ほどのバキュームの面白さの余韻の延長で応利も笑いながらくすぐっていると、ぱしゃりと音が鳴る。
見上げると、勝己がスマホで自撮りしていた。珍しく自分を写して、背後にじゃれる応利と大希をいれていた。
何やら操作すると、スマホをしまう。
まさか、と思って自身のスマホを確認すると、なんとSNS不精の勝己がインストに今の写真を載せていた。自分の真顔の後ろで戯れる応利親子。その投稿文にタグはないが、一言だけあった。
happier than anythingという単純な英語は、何よりも幸せだという勝己の感情で、すでに何百といういいねがつけられていた。
「勝己、お前これ…」
「んだよ、文句あっか」
「いや、それはねぇけど…ふは、マジでこういうことすんだなぁ」
応利は思わず笑ってから自分もいいねをつけておく。勝己はそれを見守ってから、おもむろに応利の額に口づけた。
「え、」
「こっちにもキャパがあんだよ」
何の?とは一瞬思うだけで、それが幸せメーターであることはすぐに理解できた。ちょっとオーバーしたらしい。
真顔で普段と変わらないのに、少しいつもと違う感じが面白くて、そして幸せだった。