Goodbye, the last wonderful world without you
親になる、ということの覚悟や決意が、世間一般のそれと比べてどの程度のものだったが、応利には分からない。自信をもってそれらがある、と言えないのは、きっと応利がもともと並々ならぬ決意でもってヒーローを目指し、実現させたからだ。
偶然生まれた我が子に対して最初に思ったのも、救いたい、という気持ちだった。だから、応利の決意は、ヒーローになる決意の延長だったのかもしれない。
一方で、普通の人生を生きる世の女性たちにとって出産とはいかなるものなのか、そんなことを、応利は何気ない時間に知ることになった。
***
いよいよ勝己との生活が本格化し、大希との3人暮らしになるにあたって、応利と勝己は親に呼ばれて、それぞれの家から一部の必要なものを取りに帰ることになった。
勝己の休みと合わせ、車でそれぞれの家を回って一度に回収していく。
いつも通り、後部座席のベビーシートに大希が座り、助手席に応利が、運転席に勝己が座る。応利も運転はできるのだが、1年近く入院して運転していなかったため、勝己が「リハビリドライブの後だアホ」と言ってきかないのだ。
仕方なく助手席に甘んじること数時間、都内の家から静岡の勝己の実家にやってきた。
「おかえり〜、あらぁ大希大きくなった〜?」
「なってねぇわ」
すっかり孫を猫可愛がりする母親、光己に勝己は呆れる。今日は勝己の父は仕事で不在だ。
「ババアもすっかり名実ともにババアだな」
「あ?なんだって?」
光己は勝己の減らず口にその背中を張り倒す。バシィという音とともに勝己が呻いた。勝己の背が高くなってからは、光己の平手打ちは主に背中に向けられるようになった。
ただ、そうは言っても久しぶりの我が子と孫の帰宅は嬉しいようで、光己はすでにリビングに来客用のティーセットを出していた。
「さっ、応利君も座って。大希のためにお洋服も買ったから後で渡すわね」
「おい、家にあるモン取りに来たっつってんだろ、なに新しいモン買ってんだ」
「アニマルパジャマだけど?」
「でかした」
ぶれない親子の姿に応利は苦笑しつつ、ソファーに腰かける。隣に勝己も座ると、応利の腕に抱かれる大希が勝己の肩をぺしぺしと叩いた。「ババアの真似すんな」と勝己はたしなめるが、そんな意図があるとはさすがに思っていないだろう。
「あ、そうそう、アルバムも持ってく?」
「アルバム?」
光己はいそいそと机に積まれたアルバムを開く。応利は爆豪家のアルバムを見たことがなかったので興味津々だ。勝己は嫌そうな顔をしているが。
「ほら!生まれたばっかの頃の勝己!大希はちゃんと応利君の血を継いでくれたから、こんなふてぶてしくなくてよかったわ〜」
「それは俺も同意だな」
「ほんとだ、勝己の面影めっちゃある」
自身への言及はとりあえず放っておき、勝己の赤ちゃんの頃の写真は確かにどこか不遜な感じがして面白い。
写真はその後、緑谷と写るようにになり、本当に幼馴染なんだな、と感慨深い気持ちになる。やはり勝己は嫌そうにしているが。
「こんなドラ息子でもカワイかったのよ。だから持ってくなら中学生以降のアルバムにしてね」
「いらんわ」
「それに、小さい頃の写真に写ってる私、化粧もおしゃれもしてないから、あんまり外に出したくないもの」
勝己を華麗に無視し、光己はいたずらっぽく言った。確かに応利の知る光己は、服装も若々しく洒落ていて、化粧だって相応のものをしていた。