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そんな平穏な日常の一コマは、突如として破られた。
公園が面する大通りの方角から、突然爆発音が響く。地面が揺れて、空気の振動がビリビリと鼓膜を揺らし、悲鳴が公園に満ちた。
「敵だあああ!!」
「逃げろ!!」
穏やかな公園は、途端に悲鳴と怒声に包まれた。ヒーローの多い都心で、これほどの大規模な襲撃は起こりえない。経験のない出来事に、人々は一瞬でパニックに陥っていた。
応利は一瞬、走り出そうとして、すぐに腕にかかる重みで足が竦んだ。今、応利は明確に守らなければならない存在を抱えている。何も分からなさそうにしている大希を見て、足が、止まってしまったのだ。
しかしすぐに応利は強引に足を動かした。こんな町中でことを起こすくらいには、敵は腕に覚えがあるようだ。そこらへんのヒーローではあてにならない。
公園には次々とオフィス街から逃げて来たスーツ姿の人々がなだれ込んでくる。災害と同じで、公園に逃げようと判断したようだ。
敵の襲撃では、分かりやすく人が集まる場所に行くことは逆効果である。すぐに公園の人々をこの地区から避難させなければならない。
「南へ!!公園から早く離れてください!」
応利は自分を叱咤するように叫んだ。大きな声を出して自らを奮い立たせ、一方で、呆然とする人々を動かす。また、すぐに駆け付けたヒーローたちに誘導を指示した。先ほどまで応利を見てみぬふりをしていた人々も、こうした事態とあってはヒーローとして応利を捉える。
子供を抱え、老人やベビーカーの人々をヒーローやビジネスマン、大学生たちがサポートして、南の下町の方へ走り出す。
こんなことをする敵は、恐らく犯罪心理学の観点からして目立つ行動を取る。捕まるまでの間に、何か一花咲かせるようなことをしようと思うだろう。このタワーマンション街から少し南へ行けば、そこは昔からの下町として閑静な住宅街が広がる。そんな地味な方へ行く可能性は低いはず。
その判断で、応利は人々を公園から南へ誘導した。同時に、大希に配慮して傷病者を運ぶときのような走り方で走りつつ、現場へ急行する。
公園を出て大通りに出ると、すでに多くの車が乗り捨てられていた。信号だけがときを刻む通りは、まだ多くの人々が必死に走っている。こちらはオフィス街となっており、四車線の広い通りは混乱と喧騒に包まれていた。
その人の流れに逆行して走れば、すぐに煙が見え、敵のものらしい怒声が聞こえて来た。
「二等人類に死を!俺たちが真の次世代の人類だ!!」
そう叫びながら、大柄な男たちが暴れている。車を投げ、街灯を倒し、ビルの壁面を衝撃波で破壊する。地味だが、すでに多くの怪我人が出ていることだろう。先行して交戦を始めたらしいヒーローは、男たちの周りで負傷して倒れている。彼らが逃がした怪我人たちは、ゆっくりとだが確実に現場から逃れていた。
敵の数は8人、周囲のビル街に人の気配はないが、最初の襲撃があったらしい敵の後方200メートル圏内の廃墟には怪我人がいる可能性が高い。
怪我人は応利の後ろ50メートルを歩行中、公園までは1キロ。応利の周りの通りに面しているビルはどれも5、6階建てであるためか、中の人々は逃げおおせていたようだ。
「…
0気圧の壁」
爆音で耳を傷めないよう、大希の周りに0気圧の空間がバリアのように囲む。もちろん大希の顔のあたりは大気圧を維持しているが、薄い0気圧の真空が存在するため、空気の振動が伝わらず爆音が鼓膜を痛めることはない。
あとは激しく動いて揺らさないよう気をつけつつ、8人の敵と交戦するだけだ。
「おお、誰かと思えば見てみろよ!男のくせにガキ産んだヒーローパスカルじゃねぇか!!」
中心人物らしい一際大柄な男がこちらに気付いて言えば、周りの奴らもこちらを見て嘲笑を浮かべる。
「気持ちわり!男のくせによぉ、爆心地に突っ込まれてアンアン言ってたってことだろ!?」
「ガキ連れてるヤツ1人なんざ目じゃねぇよなぁ?」