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そう言いながら、敵は素早くフルフェイスのマスクを装着した。手慣れた動きは、この辺りが応利の活動する地区であることを見越して、個性対策として用意していたものだろう。相当警戒しているようだ。確かにこれでは、応利の先手必勝の減圧によって意識を失わせる技は使えない。だがそれは、雄英体育祭ですでに対策されていたことだ。今更それは問題ではなかった。
こうして正面切って応利に挑んできた敵もいなかったため、フルフェイスのマスクで呼吸を維持している敵と交戦する応利を見たことがないのだろう。
「
局所高気圧、3000hPa」
カーディガンの袖を捲り外気に触れた腕から個性が発動し、男たちの周りだけ大気圧が3倍となった。アスファルトにヒビが入り、街灯が軋んで歪み、車がひしゃげ、そして敵は経っていられなくなって地面に縫い留められる。
「なっ!?」
「くそ、重い!!」
あとは増援が来るまでこれを維持するだけだ。一芸じゃヒーローは務まらないとは担任の相澤の言葉である。
早く来てくれ、と思っていると、突然、少し離れた通りから更なる爆発音が響いてきた。驚いてそちらを見れば、悲鳴を上げて人々がこちらの通りへ駆け込んでくる。
「っ、まだいたのか…!」
「はっ、油断したなパスカル!」
動けない男たちが不敵な笑みを浮かべる。奴らの増援の方が先に来てしまったらしい。思わず舌打ちをした。
人々はこちらで交戦していることを忘れたのか、それでも応利がいるから来たのか定かではないが、交差点に至ってこちらを見て、敵を見て顔を青ざめさせた。
ドン、という爆発音が立て続けに響き、車が飛んでくる。人々が悲鳴を上げてしゃがみ込み、そこに車が数台落下してきていた。他にヒーローはいない。
「クソが…ッ!!」
応利はすぐに駆け出して、交差点で顔を伏せる人々の近くに走り寄る。そして、落ちてくる車の周辺の空気を急激に圧縮した。技などではなく、ただ無理やり空気を圧縮させたのだ。
それにより車は鈍い音を立ててプレスされ、ガラス片やガソリンを振りまきながら直径1メートルほどの鉄塊に凝縮される。
「走れ!!」
人々に向かって叫ぶと、弾かれたように彼らが走り出す。ガソリンを浴びてはいるが、ガラス片で怪我をすることもなく、落ちてくる鉄塊はコンパクトになったため避けやすかった。なんとか車の直撃こそ免れたが、とてつもない圧力を使ったため、頭痛が鋭く走った。
さらに、背後で爆発音が轟く。拘束していた敵にかけていた高気圧を解いてしまったのだ。あまりに急激な空気の圧縮を行ったこと、火花がガソリンに引火して爆発してもいいように0気圧の壁を設けたこと、そうした細かい作業と大きな力で拘束を維持できなった。
「まずはお前から殺す!!」
拘束していた8人はこちらへ走りながら、それぞれ個性を使用した。増強系の2人が車を投げ、声を衝撃波にできる男がこちらにそれを放つ。
更に、別の通りから来ていた敵が6人、交差点に差し掛かろうとしていた。
まずは迫る衝撃波を大気のコントロールによって霧散させ、飛んでくる車は普通に避ける。それと同時に、応利はいつこういうことがあってもいいようにポケットに忍ばせていたスーパーボールを投げつけた。スーパーボールが地面に当たった瞬間、地面に触れて圧縮応力を引き上げて地面を爆発させる。アスファルトごと地面が吹き飛んだため、敵のうち前に出て来た4人は吹き飛ばせた。
続いて、交差点に着いた増援の6人に向かって過圧を放ち、衝撃波となったそれは先ほどの男のものとは比べ物にならない強さで敵に襲い掛かった。
しかし男たちの1人が巨大な羽を羽ばたかせ、仲間を抱えて飛び上がったことでそれを避ける。
「チッ、ちょこまかと…!」
いくら音が伝わらないとはいえ、大希は異常事態にぐずっている。その泣き声も同様に応利には聞こえてこない。米神を中心に、頭はズキズキと割れそうなほどに痛みを訴えていた。ここまで大技を頻発させることもそうそうない。
しかしそんなことで音を上げるようなわけにはいかなかった。