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応利は素早く状況を確認する。先ほど羽ばたいた奴らはまだ空中にいる。吹き飛ばした4人はすでにヘルメットが外れており、後ろの4人はこちらに向かおうと足を踏み出したところだ。
この間1秒、すぐに応利は行動に移した。
まず、最初の男たちのうち、こちらに走り始めた4人に意識を集中させた。羽ばたく奴らからも完全に意識を外し無防備になる。その一瞬で十分だった。フルフェイスのマスクの内側で、気圧を下げるのだ。当たり前だが、たとえ酸素マスクのついたマスクであっても、空気は繋がっている。吐いた空気が出ていく部分から外気と繋がるのだ。その僅かな空間から操作して、4人のマスクの内側を減圧する。これほどの隙は、8人が警戒して相対していた先ほどではできなかった。今がチャンスだったのだ。
一瞬で意識を飛ばした4人。吹き飛ばした4人もついでに意識を失わせれば、音もなく8人が沈んだ。高度な操作をしたために、頭痛は更に強くなる。ここまでの反動は、プロになって初だった。
何のリアクションもなく地面に倒れた8人を見て、空中にいた6人は事態を察したようだ。
「くそ、やられた!」
「おい公園に急げ!」
どうやら交戦を諦めたらしい。翼のある敵はオフィス街から公園へと向かって一気に加速してしまった。集中を解いた直後だったため、応利は動作が遅れた。
「っ、させるか…!」
恐らく公園には、先ほど交差点にいた人々が逃げ込んでいるはずだ。戻って来た野次馬もいるかもしれない。応利は近くに乗り捨てられた車に乗ると、刺さったままのキーを回してエンジンを吹かせ、すぐに追いかけた。さすがに走るより車に乗る方が速い。
そういえば出産してから運転するのは初めてだ。大希を抱えて事故にならないようにしつつも、無人の四車線を走り抜けた。
公園の入り口に着いたのと、敵が上空から逃げ惑う人々に攻撃を仕掛けようと地面に降りたのは同時だった。エンジンを切ることもせず、応利は車から出て公園の中を走る。もうすでに悲鳴が聞こえてくるが、まだ攻撃音はしない。
なんとかレンガの道を抜けて広場に出ると、まさに敵が攻撃モーションに入ったところだった。
こちらの6人は炎を吹く者が1人と増強系が3人、翼のある異形型が1人、そして関節から刃物が出る者が1人という構成だ。逃げ遅れたスーツ姿の男性と女性に、刃物が振りかざされる。
咄嗟に応利は地面に触れ、刃物男が一歩踏み出した瞬間にそこの地面の応力を引き上げた。その僅かな体重移動に対して地面に過敏に反応し、耐え切れずレンガが爆発して男は体勢を崩す。その隙に6人全員に減圧を掛けようとしたが、「動くな!」という鋭い声がかけられた。
声の主は翼の敵。そして、その背後では、マイクを持った女性が炎を吐く男に捕まっていた。カメラマンが近くに倒れ、増強系の敵に拘束されている。どうやらテレビ局のクルーのようだった。
「お前の個性で気を失わせても、この距離なら炎でこの女子アナの顔を焼くことはできる。殺せなくても、地獄のような苦しみを人生にずっと与えられるだろうな」
すでに炎が男の口から洩れており、翼のある男はすごみをかける。捕らえられたアナウンサーは確か高橋アナと言っただろうか、よく現場でインタビューを受けた覚えがある。
男の脅しは嘘ではない。たとえ最大限の速さで減圧を行っても、意識を失うまでの数秒で男は高橋アナの顔を焼くことができる。殺すことこそできないだろうが、ひどい火傷を負わせるには十分だった。
女性、さらにはアナウンサーという仕事からも、そんな目に遭うことがどれほどの苦しみとなるか。命あっての物種とは言うが、ここで命だけを優先させるのはヒーローではない。