2
応利は病院から警察に事情を説明すると、警察は大いに動揺しながらも犯人の男に話を聞いた。当然だ、かなり名の知れた若手ヒーローである応利が子供を身ごもるなど。
とはいっても、警察は相手が勝己だと分かっている。世間では勝己と応利の交際は知られているからだ。
実は、2人ともあまりにゴシップ記事が多いものだから、面倒なのもあって関係を発表している。いまどき性別など大した問題ではないので広く受け入れられたし、そもそも2人は実力でもって社会に貢献している。反対する者も特におらず、かといって2人は付き合っていることをそう売りに出しているわけでもなかった。そんな緩いビッグカップルである。
最初は驚いていた警察も、その後男から事情を聞いて応利に掛け直してきたときにはもう落ち着いていた。いつも通り、取り調べで男はこうしたことを予想していなかったと伝えてくれた。
「犯人にとっても予想外だったんですか?」
『ええ…体の中と外で元に戻るタイミングが異なったり、臓器の一部だけ残ってしまうなどというようなケースは知らなかったそうです。他の被害者も実際にはそうだったのかもしれませんが、それが明らかになる前に完全に効果が切れたのでしょう』
「なるほど…それで、個性を掛け直したり、延長したりはできるんですか?」
『自分でかけたものを延長することは可能なようです。なんなら一生定着させることもできるようで、実は結構とんでもない個性なんですよね』
「整形外科医は仕事上がったりだな…じゃあ、これから延長してもらいに伺ってもいいですかね」
『危なくないですか?』
「……なんか、そういうことするようなヤツじゃないっていうか。ヒーローの勘です」
***
応利は渋る警察を説得し、拘置所へやってきた。まだ法廷に出ていないため刑罰が決まっていない。
確かに普通は危ない橋だ。しかし、応利はどうにもこの男がそう悪いヤツではないとも思っていた。
面会室へ入ると、ガラスの壁の向こうに男が座る。ガラス越しに向き合うように応利も座ると、男はうっすらとほほ笑んだ。
「妊娠おめでとう、さすがの私も驚いちゃったわ」
「てっきりこれが目的かと思った。俺に子供作らせて活動を停止させるみたいな」
「やだ、優秀なヒーローが減ったら安心して暮らせないじゃない。私はただ、人によって身体の男女を入れ替えた方が可愛く・格好良く見えると思ってやってただけよ」
そう、警察も話していたが、この男の犯行動機はそんなことだったのだ。実害が出ていないことや悪質でないこともあって、かなり刑罰は軽くなるだろう。
「それにしてもさすが爆心地ねぇ、こんな僅かなチャンスに確実に当てちゃうんだものねぇ」
「…それな……」
この男も応利たちのことは知っていたようで、奇跡に奇跡が重なった今回の事態において確実に妊娠させた勝己がさすがだなんて評した。そこは応利も同意である。
「でもあなた、どうせ爆心地と話していないんでしょう」
「えっ…」
「しかもその冷静さ。良くない落ち着き方よ。実感が持てなくて、自分に子供ができるっていうのがどういうことか分かっていないんだわ」
「うぐ…」
「これからどんなに大変なことが待ち受けるのかも分かっていない。それは全部、パートナーと話していないから。これからのことを、思い描いていないからよ」
男は的確に応利の心境を当てて来た。まさにその通りなのだ。
妊娠する、など男性である応利には青天の霹靂。まったくの想定外であるため、心の準備などゼロだ。勝己とパートナーになった時点で子供を諦めていたこともある。
だから、大変なことと分かっている出産というものがうまく自分の中に落とし込めず、実感がともなっていない。漠然としているままなのだ。
まず何よりも勝己と話さなければならないのを、避けたからだ。