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「…うっ、」


さすがに頭痛がひどく、思わず呻き声を発する。それを聞き取ったのは高橋アナだけだったが、それを指摘される前に、翼の男が炎を吹く男を抱えてこちらに飛んできていた。翼の男はかなりスピードが速く、あっという間にこちらに至った。
僅かに反応が遅れたことで、6人はもちろん、こちらに飛んでくる2人の意識を減圧で失わせるには時間が足りない。すでに、意識を飛ばしてもこちらに炎を吹きかけられる距離に来てしまっていたからだ。

だが、応利は自身の反応が遅れてそうなってしまうことは視野に入れていた。敵がその程度の実力を持っていることも理解していた。頭は割れていないことが不思議なほどにぐわんぐわんと揺れるように痛み、もはや思考すらままならなくなりそうだった。
恐らくあと少しで応利の意識が頭痛で飛んでしまいかねない。
それでも、背後にいるアナウンサーとカメラマン、協力してくれたヒーローを、そして、何より抱きかかえるこの子を守るために、応利は自身のキャパなどどうでもいいと思っていた。そのために、準備を整えたのだ。


「…ヒーロー、舐めんなよ……!」


ぎゅ、と大希を抱える。間違いなく、これが火事場の馬鹿力というやつだ。とっくに限界は超えていたけれど、それは諦める理由とはなりえなかった。


「ダウンバースト…ッ!!」


振り絞るように個性を発動した。
その次の瞬間、猛烈な風が街に向かって吹き付けて来た。その源は、上空に立ち込める低気圧だ。

発達した低気圧は、その中心で下降する空気の運動を持っている。それは凝縮して水滴となった雨粒が地上に向かって落ちていく動きだ。雨粒が落ちる際に空気との摩擦で熱が生じて、それも下降運動を加速させる。

低気圧とは上昇気流のことであり、高気圧とは下降気流のことだ。つまり、上昇気流である低気圧の中心において、下降気流による局所高気圧が発生していた。
この高気圧は、ゆっくりと落ちてきて低気圧下部まで来ると、低気圧に向かって地上から上がってくる気流に支えられてそこに居座る。しかし低気圧がその力を弱めて終末段階に至ると、もはやその局所高気圧を支えることができなくなり、そしてその高気圧が一気に地面に落ちてくる。
この大規模な空気の地面への移動によって生じる猛烈な暴風のことを、ダウンバーストという。

発達した低気圧の死に際に起こる、最後の暴風だ。

応利は意図的にこの地区上空に終末段階の低気圧を作り出し、局所高気圧を支えさせていた。それが今、上昇気流を止める個性の働きを発動したことで落下し、こうして吹き付けてきている。
敵は個性だと理解して、すぐに炎を吹きだしたが、風は応利たちの背後から吹いてきているため、その炎は自分たちに吹きかかった。


「ぎゃあ!!何しやがる!!」


翼の男は大やけどによって飛べなくなり、猛烈な風によって流される。減圧による敵の意識喪失では間に合わないことを見越した応利のダウンバーストによって、炎を避けつつ敵の継戦能力を削いだ。
更に暴風は、公園の木々をなぎ倒し、ベンチを吹き飛ばし、街灯を曲げ、そして周囲のビル群やマンション群のガラスを砕いて車をも吹き飛ばす。通常の気象現象以上の強さで風を起こしているのは、ひとえに応利の個性の強さに他ならない。
大量の木々やベンチ、自動販売機、車、そしてガラス片が敵6人に襲い掛かる。体を支えることもできない彼らは、そうしたものと一緒にオフィス街へと飛ばされた。

ちなみに応利たちは気圧を維持した空間にいるため風を感じていない。

暴風はやがて、オフィスビルの窓をすべて破って、内部に吹き込んだ風によって建物にかかる圧力が変化したことで天井が吹き飛んだ。竜巻のときに起こる現象だ。建築中のビルに設置されたクレーンが飛ばされ、しなるように動く高層ビルに激突し、ビルは耐え切れずにクレーンが衝突した15階あたりで崩壊した。その瓦礫が、敵が叩きつけられた雑居ビルに落下していく。あちこちで爆発が発生し、風に乗って黒煙や炎が流れるのが見えた。


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