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完全に災害のそれであった応利のダウンバーストは、5分ほどで収まり、ようやく風は止んで静かになった。応利が維持したバリアのような空間を解くと、中にいた他の3人は呆然と辺りを見渡す。

景色は変わり果てていた。公園の木々は薙ぎ倒され、アスファルトはすべて砕け散り、街灯もベンチも車もあらぬところに散乱する。公園の向こうに見える高層マンションは外壁が剥がれガラスがなくなり、公園から飛んだ草木が引っかかって無残な外装を晒している。
オフィスビル街もガラスをすべて失った建物が骸骨ように佇み、一角にあった40階建ての高層ビルは真ん中から折れて傾いていた。その上半分が落下したビル街は瓦礫の山と化し、街のあちこちから黒煙が上がる。


「…すごい……こんな、1人で……」


気の抜けたように呟く高橋アナはへたり込んだ。応利はすぐにしゃがみ、様子をさっと確かめる。


「怪我は…ないですね」

「あ…はい、大丈夫です、ありがとうございました…」

「高橋アナ…俺、全部撮りました…げほっ…」


カメラマンの方も、撮影するくらいには無事だったらしい。とりあえず、何ともなさそうで良かった。思わず安堵のため息をつくと、途端に頭痛の酷さで頭がいっぱいになる。ヒーローが心配そうにこちらを見やるが、その直後、カメラマンが「あっ!!」と叫んだ。その声に滲む驚きと恐怖に気づいた応利は、即座に視線の方向を向く。

そこには、こちらへ向かって飛んでくる巨大な瓦礫が見えていた。
その向こうには、瓦礫の山から這い出てくる翼の男と、瓦礫を支えて無事だった増強系の敵、そしてもう一人の増強系の投擲姿勢。どうやら、瓦礫から出てきてすぐにこちらに瓦礫を放ったらしい。
コンクリートの塊は、もはや空気の圧縮でどうにかなるものではない。スーパーボールはもう切らしており、打つ手がなかった。サッと体の内側が冷える感覚。


……―――だめだ、間に合わない。


応利がそう判断したのは早かった。
そして、抱っこ紐を外すと、高橋アナに大希を押し付ける。驚く彼女を突き飛ばすと、ヒーローがカメラマンとともに離れていくのが見えた。カメラマンは、突き飛ばされた高橋アナを掴み、3人でその場を離れる。
頭痛で動けない応利が高橋アナを抱えて逃げることはおろか、自分ひとりで素早く動くことすらできなかった。大希を逃がしたのは、咄嗟の判断だ。何も考えず、ただ、大希だけは救けなければならないと思った。

瓦礫が応利に影を落とす。命が助かっても大変なことになるか、もしくは死ぬか。いや、これは死ぬだろう。そう考えた、その瞬間。


カッと眩い光が辺りに満ちたかと思うと、耳を劈くような爆発音が轟いた。一瞬の爆炎と真っ黒な煙、そして、嗅ぎなれたニトロの匂い。何が起きているのか、その理解は、安心する匂いを感じただけで済んだ。
思わず気が抜けて体が傾いたところを、逞しい腕が支え、そして応利の体は筋肉質で大きな人物に受け止められた。


「……もう大丈夫だ、応利。よう頑張ったな」

「か…つ、き…」


応利を抱き留めた勝己は、いつもの目元の黒い布を外しており、鋭い眼光がよりはっきりを見えた。その目は優しさと安堵を滲ませながらも、明らかな怒りに燃えていた。
応利を背後に座らせると、こちらへ向かってくる敵に立ちはだかる。勝己の登場で委縮していた敵たちに、誰もが慄くような低い声を勝己は吐き出した。


「ひとの家族に手ェ出しやがって…生きて帰れると思うなよクソ敵ども…ッ!!」


足を大きく開き、両手を上に向けてバチバチと音を鳴らす。本気の怒りで、空気すら震えているようだった。

まだ敵は捕らえられていない。それでも、助かった、と思うくらいには、勝己の存在に応利は心から安心していた。当然だ、初めて大希を抱えてバイスタンダーとして敵に出くわし、それもかなりの強敵だったのだ。
そして何より、ついさっき、応利は死を覚悟した。死んでも、息子を守ろうと決意した。今、勝己はすでに翼の男を嬲るように地面に叩きのめして、増強系に向かっていく。



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