I've got you−3


応利はそんな緑谷を見てふと疑問に思う。


「怒ってくれんのは嬉しいけどさ。なんで勝己が怪盗なんかになったときより怒ってんの?」

「えっ、そ、れは…」


そう、ここまでの怒りを示す緑谷は珍しく、それこそ2人の幼馴染である勝己が怪盗になったときよりも怒っていたのだ。

家庭が崩壊した応利にとって支えだったのは幼馴染である緑谷と勝己の存在で、それは3人が雄英に入ってからも同じだった。一緒にA組で努力を重ね、応利が警視庁に、緑谷と勝己がヒーローになったときは、これから一緒に日本の秩序の貢献するのだと思っていた。
だから、早々に勝己がヒーローを引退したかと思えば怪盗なんかに転職していたことに応利は怒った。緑谷も怒っていたが、思ったほどのものではなく、今応利のことで怒るよりも程度の軽いものだったのだ。


「…かっちゃんは、いろいろ考えてるから、意味のないことはしないし…僕よりも、救ける力がある」

「…は?俺らが公表すれば一瞬で敵に成り下がるのに?」


そう、勝己が怪盗であるということは、2人しか知らない。2件目の事件で勝己だと分かったのだが、それは個性が特徴的だったからで、嗅ぎなれたニトロの匂いがしたからだ。他の警察が倒れて2人だけで追いかけた際に、勝己は自らマスクを外して認めた。
それ以降、2人は何度も話し合い、しばらく勝己のことは黙っていることにした。警察は爆発を爆弾によるものと思っているようなので、今のところ勝己に繋がる証拠は何一つ出ていない。

世間に公表せずいるのは、何とか2人で勝己を説得するためだった。どうして道を逸れたのかを聞いて、その真意を確かめる、そのために私的ではあるが2人は勝己のことを黙っていた。


そんな怪盗・勝己が救ける力を持っているとは、緑谷は何を言いたいのだろうか。首を傾げるが、緑谷はそれ以上話そうとしなかった。



***



それから1か月。
いつものように通常業務をしていると、テレビで速報が入った。東京都内のホテルで、経済フォーラムに参加するために訪日していた米国の有名な投資家・バレット氏が亡くなったというものだった。

このバレット氏という老紳士は非常に有名で、その発言は世界で最も当たる投資予想と言われているほどの影響力があった。何度もノーベル経済学賞を受賞する経済学者でもあり実業家でもあるバレット氏は、会話をする権利だけで数億ドルの値がついたことがある。


「今日は今朝から慌ただしいですね」

「本当にな」


話しかけてきたのは部下の郷豪という男だった。爽やかな笑顔が眩しい黒髪の部下で、よく慕ってくれている。
郷豪が言う通り、今朝は首都圏が少し忙しかった。
まず早朝から航空会社のシステムに異常が発生し、日本発着の国際線がすべて延期になるというとんでもない事態が発生。それだけで株価にすら影響が出るというのに、テロ予告によって東京駅発着の新幹線すべてが運転を停止し調査に当たっている。

そこへ世界で最も影響力のある投資家が都内で亡くなったのだ、何事だ。


「圧気さん!」

「どうした」

「予告状です…!」


すると、他の部下が慌ただしく駆けこんできた。怪盗対策室は一気に緊張が走る。応利が責任者になって最初の事件だ。応利も頭が冴え渡る。


渡された予告状を見てみると、いつもと同じ文言だった。「今東京にあるこの世で最も高価なモノを頂戴する」という内容。ここにきて、応利は様々なことが脳内で一気につながった。


「…バレット氏の側近の代表に大至急繋いでくれ。噂の『バレット氏のデータ』かもしれない」

「わ、分かりました!」


予告状を持ってきた部下は急いで電話をかけ始める。同時に、側にいた別の部下も警視庁のトップ方に連絡を入れる。郷豪はそれを見て眉を寄せた。


「バレット氏の投資するべき企業や債券の一覧や予想データなどが収められたデータ媒体のことですか?」

「そう。それがあれば、今後の市場をすべて理解し億万長者になれるという代物だ。バレット氏はいつ自分が死んでもいいように、肌身離さずそれを持っているという」

「でも、今までは宝石でしたよね?」


そう、これまで怪盗が盗んできたのは、インペリアル・トパーズに始まり、バイオレット・サファイア、エメラルド、グリーン・ガーネット、オパール、ターコイズという宝石でできた何かだった。ここにきてデータというのは不自然だ。


「窃盗を恐れて、あらかた都内に高価すぎる貴金属は置かれないようになった。それに加えて今朝からの事態。データのことを考えると、バレット氏が亡くなったあとすぐに公表せず、すぐにデータを安全なところに移す取り組みがあったはず。でも、朝から国際線航空機はすべてダウン、新幹線すら動かない。となると、まだバレット氏のデータは都内にある」


そして予想通り、電話が通じると、側近たちは途方に暮れていた。人の死を隠して置けるほど後進国ではない日本であるがゆえに公表することにはなったが、その先進国日本が一時的に海外と断絶されたのだ。しかも怪盗からの予告状の発表。
確実にデータが狙われているというのは向こうも察したようで、すぐに警視庁の総力を挙げての防衛ラインが築かれることになった。
これで盗まれれば、日本の信頼は地に落ち、犯罪者に今後の世界経済を占われることになる。


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