速すぎるふたり−2
「卑怯者」「正々堂々戦え」「それでも雄英生か」「この学年の3年間の体育祭はお前のせいでつまらない」、これらはすべて、応利に対しての世間の声だ。
圧力と応力を操作する個性である応利は、その個性の強さとセンスによって、体育祭で3年間ストレート勝ちしかせずに優勝してきた。
特に盛り上がる本戦では、すべての1対1の戦いで開始数分で決着した。
理由は簡単、応利が気圧を下げて相手を気絶させて勝利するためだ。相手が対策しても、相手がモーションを起こした瞬間に地面の応力を引き上げて爆発させ退場させている。
そんな圧倒的な強さを見て、世間は、若者たちが切磋琢磨してしのぎを削る戦いを楽しみにしているのに、汗ひとつかかずに一瞬ですべて終わらせる応利の存在にいら立ったようだ。
応利は何もルールに反していないし、人倫も乱していない。それでも、人々はそれを卑怯だと受け取った。
マスコミでさえも、「もう少し正々堂々と体を張ってぶつかりあってほしい」だの「一瞬で終わってしまう出来レースでつまらない」だの平然と報じるのだ。
しかし、応利たちはヒーローになるために雄英にいるのであって、世を沸かすエンターテイナーではない。応利はヒーローになるためだと自分に言い聞かせ、そういう心ない言葉をなるべくシャットアウトしていた。
それでも心はどんどん疲弊していく。
そんな中で、応利はホークスに何度も慰められてきた。ホークス自身、その華々しい「速すぎる」経歴は、人からの妬みをよく受けるものだった。若いくせに、というような風潮だって感じていた。
速すぎるからこそ、ホークスは、応利の苦悩を分かってくれたのだ。おそらくホークス自身、同じ境遇の応利に近しいものを感じているのだろう。
互いに互いが、周りを安心させられるメンタルを保つために必要な精神的支柱になっている自覚があるから、特別視しあっているのだ。
***
パトロールのために街中に出ると、途端に人々が寄ってくる。大半は観光や仕事で市外から来ている人で、多くのこの町の中心部の住民は、ホークスを見たことがあるはずだ。
最近は広告などでも格好良く出ていることから、人気がうなぎのぼりだ。
今日も今日とて人に囲まれるホークスは、いつも通りゆるい笑顔で対応する。その横で、応利も「体育祭みとったで!」「ホンマ強いなあんちゃん!」という声をもらっては礼を言って対応していた。
「よう人前に出れるな、あんな戦いしといてからに」
「ホークスんとこで何しよっとん、あいつ」
ふと、そんな声が通りすがりに聞こえた。一瞬で小さいものだったが、運悪く聞こえてしまったのだ。
気にするな、そう言い聞かせるが、もうその時点で頭にはそれが漂ってしまっていた。
ちゃんと、笑えているだろうか。強ばってはいないだろうか。そんなことを考えながら取り囲む人々と話す応利に、ホークスの気だるげだが鋭い視線が向いた気がした。
事務所に帰ると、すぐにホークスはジャケットを脱ぎソファーに座る。
「おいで、」
そして、緩い笑顔とともに、こちらに腕を伸ばした。子供相手にするようなそれは、普段なら拒否するようなもの。しかし、応利には、少なくとも今は、そんな選択肢はなかった。
「いい、ですか、ホークスさん」
「だからいちいちそんなこと聞かなくていいって。遠慮しなくていいよ」
「…、はい」
応利はそっと、ソファーに近付く。未だに慣れないその挙動はぎこちない。それでも、ホークスはもう慣れたように応利をその腕の中に招き入れた。
「どうした?今日はずっとなんか気にしてたじゃん。さっきの通りすがりのバカだけじゃなくてさ」
「……クラスメイトにも、言われたんです。『お前はずるい』って」
「へえ?こんなに日々努力してる応利がずるいんだ。すごいなァ雄英は、俺なら応利みたいに毎日あくせく頑張れない。そんなヤツをずるいだなんて思えないって」
そう言いながら、ホークスは応利を抱き締めたまま立ち上がる。当然のように応利を肯定してくれる、そんな温もりに包まれる。
バサ、という軽い音とともに、ホークスの翼が動く。ごく軽い風とともに、その羽は応利を包み込むようにして閉じられた。
翼によって、応利は周囲が完全に見えなくなる。見えるのは、目の前で応利を抱き締めるホークスの肩と首筋だけだ。
「応利は強い。俺が一方的に守ろうだなんて、思わない。でもね、俺はちょっとだけ応利より大人で、ちょっとだけ余裕がある。だから、こうして周りの世界から応利を隠してやることはできんの。そんで、寄り掛かる柱くらいにはなれるわけだ」
ぐ、っと強く抱き締められると、逞しい体と翼の中で、世界から隔絶されたように感じる。ここはまさに、ホークスと応利の2人きりの世界なのだ。
そう思うと、気持ちが途端に軽くなる。慰めや庇護というより、2人きりになって、楽にさせてくれているのである。
そんなホークスの優しさに触れるだけで、応利は、どんなつらいことも気にならないような気がした。