速すぎるふたり−3
それから数日後、応利がちょうど事務所にいるときだった。
パトロール中の相棒の1人から、緊急事態発生を告げる電話が鳴った。その着信音を聞くとすぐ、それまでだらけてソファーに座っていたホークスの目つきが変わる。
応利も居住まいを正すと、ホークスはすぐに応答した。
「どうした?」
『博多駅前の宝石店で立てこもり事件が起きました!犯人は複数おり、爆弾を所持、警察とヒーローが出動していますが、立てこもられて動けない状況です!』
「応利…パスカルの出番やな」
ぼそっというホークスの独り言。たまにこうした瞬間に、ホークスは方言になる。東京生まれ東京育ちの応利には分からない感覚だ。
こういうときのホークスの頭の中は、恐ろしく早く回転しているのだと応利は知っている。
「よし!行くよパスカル」
「はい」
ヒーロー名で呼ばれたこの瞬間、2人はヒーローとしての立場になる。メリハリは大事だ。
さっそく、2人はビルの屋上へと駆け上がる。緊急の出動は、いつも階段を上に上がるところから始まる。
屋上に出ると、初夏の湿った風と低い曇天が2人を出迎える。その風に乗って、市街地中心部からパトカーの音が聞こえてきて、さっそくマスコミのヘリがやってきていた。
「3分で着きます?」
「まさか」
応利が聞けばホークスは薄く笑って応えた。
「1分で着くよ」
そう言うなり、ホークスは応利をその両腕に抱え上げた。お姫様抱っこのようなその姿勢は、慣れたといえ応利としては複雑なものだ。しかしこれが最も効率的だった。
ホークスはその状態で翼を思い切り羽ばたかせた。風が屋上のアスファルトを撫でる。
そして、博多の空へと思い切り舞い上がった。一気にビルが遠ざかり、耳には風を切る音ととともに翼のはためく音が響く。
「いつも通り!俺の剛翼を宝石店内部に忍び込ませるから、その動きによる気圧の変化を感知!」
「ホークスさん自身の索敵と参照して敵の正確な位置を掴み次第、敵の気圧を下げて気絶」
「上出来!」
「当たり前です、もう3年ですよ」
空中の僅か1分間、そこで2人の作戦会議は始まり終わる。すでに眼下には博多駅前のビルが続き、もう警察が取り囲む宝石店も見えていた。
ホークスの個性、剛翼は、翼の羽根を自在に操るものだ。「速すぎる」所以でもあるこの翼による様々な攻撃や索敵は、これまで何度も敵の裏をかいてきた。
個性だけではない、ホークス自身の頭の良さと一瞬の判断の正確さが、その思考の実現を助けていた。
翼ははためくのをやめると、滑空の姿勢に入る。そのまままっすぐ警察の輪の中に飛び込んだ。
「うおっ…ホークス!?」
「雄英の圧気応利もいるぞ…!」
どよめく警察、ホークスは近くにいた警官にすぐに尋ねた。
「状況は」
「変化なし、敵は店内に立てこもり、逃走手段を用意しないと爆弾を爆発させると…」
「人質は約10名です、犯人は爆弾を爆発させるのは、我々の行動が少しでも起きればだと主張しています」
「なるほど。パスカル、5秒ね」
「了解です」
敵が起爆を決意するまでに2人に与えられた時間を5秒と設定すると、その間にすべてを解決することになる。
応利は目を閉じて、手をかざす。途端に脳内には、揺れ動く空気の圧力が手に取るように検知できた。
同時に、ホークスは羽根をさっと店内に向けて飛ばした。その動きにともなう空気の動きが、立体的に、店内の様子を脳内にイメージさせる。
羽根が店に入ると、羽根は的確に敵に向かって飛ぶ。敵は5名。だいたいの位置はつかめた。
「…敵の位置固定」
短くホークスが言ったその瞬間、その羽根の止まった位置と応利の検討づけた敵の位置が重なり、その座標が分かった。
そしてその直後、応利は個性を発動させた。
「
局所低気圧、375
hPa」
「…よし、全員倒れた!」
ホークスは敵の息遣いから、5名全員が意識を失ったことを確かめた。
警察はあっという間の出来事に呆然とする。本当に5秒で制圧したのだ。
しかし、次の瞬間、ホークスが息を飲んだ。