此処にましませ 狐狗狸さん−3
その夜、応利は上鳴、瀬呂とともに夜の高校にやって来た。時刻は午前2時、当然校舎には誰もいない。寝静まった街の中、黒々とした校舎はいつも見ている姿とは異なり、何者も受け付けないような、そんな威圧感を放っていた。
「な、なぁ、ほんとに入んの……?」
「一番被害少なくなるしな」
「上鳴だっせ」
あからさまに怯える上鳴と、冷や汗をかきながら笑って強がる瀬呂。応利も内心恐い気持ちはあったが、明確に守らねばならない2人がいることで、気は引き締まった。
「……上鳴、瀬呂。俺はこれから、何度かお前らには見えない相手と話す」
「へ……」
「…できれば、気にしないでくんね」
別に仲が良かったわけではないが、普通では考えられないことをする姿を見られるのは抵抗がある。しかし、上鳴は真剣な顔になった。
「……いや、気にするぜ。心配だしな」
「心配……?」
「確かに見えねえし、すぐ信じろって言われても難しい。けど、こうやって相談乗って付き合ってくれてる、お前の優しさは本物で、目に見えるモンだろ。だから、お前が大変な目に遭ってないかは心配する」
「上鳴お前いいこと言うじゃん」
「だっろ〜?」
「ま、上鳴の言うとおりだな。俺たちは、お前のことを信じるよ」
2人は引くことなどなく、ただ、信じると言ってくれた。霊のことではなく、ただ、応利の人としての部分をだ。
すでに半分人ではなくなってしまった応利だったが、そう言ってくれる2人の誠実さに、こちらが救われたような気がした。
「……ありがとな」
「こっちのセリフだっつの」
上鳴は腕を組んでドヤ顔で言った。それに苦笑すると、応利は指先を左右の紋章に触れた。
「……此処にましませ主のまにまに」
その途端、応利の背後に光とともに勝己と焦凍が現れた。上鳴たちは何も感じていないようだったが、突然吹いた風には違和感を抱いたらしい。キョロキョロと見渡していた。
「……チッ」
「勝己、頼む」
「……てめぇじゃなきゃブン殴っとる」
「ありがと。『破』」
そう唱えると、勝己は爆破によって次々と校門や昇降口の監視カメラを破壊した。その爆発音は聞こえていた上鳴たちは、驚いて飛び上がった。
「おわっ!?なんだ!?」
「来たのか!?」
「味方がやった。ほら、中入るぞ」
応利は上鳴たちと勝己たちを連れて、校門を花壇から飛び越えて敷地内に入った。上鳴たちも同様に続き、勝己と焦凍は軽々とジャンプしてきた。
そうして真っ暗な校舎に入ると、2階の空き教室に向かう。そこで迎え撃つのだ。
***
月明かりや街灯の明かりだけを頼りに、一行は2階に上がり、端の空き教室へ歩く。案外暗くないのは、満月だからだろう。
勝己と焦凍は気配を辿って敵の接近を警戒しながら、いつでも応利たちを守れるよう周りを歩いていた。
「……圧気、さっき言ってた味方って、今もいんのか?」
怖がっている上鳴は少しでも安心材料が欲しいらしい。足取りも重かった。
「いるよ」
「よ、よろしく伝えといて」
「ア?お前を守りに来てんじゃねぇわカス」
「『お前をを守りに来てんじゃねぇわカス』だってさ」
「え!?態度わっる!?ほんとに大丈夫なのかよ!?!?」
「はは、」
「いや笑い事じゃねえから!!」
あえてそのまま伝えてやれば案の定騒ぐため、おかしくて笑ってしまった。なおも上鳴は騒いだが、瀬呂に窘められて渋々黙った。
そうなると沈黙が満ちて、たまに外からの車の音くらいしか聞こえなくなった。
そうして空き教室に着くと、応利は扉の取っ手に手を掛ける。この中で2人を待機させ結界を張り、近付いてきた敵を祓う方針だ。
「あ……ここ、コックリさんやったとこだ」
「……え、」
そして扉を開けた瞬間、瀬呂がそう呟いた。途端に悪寒が走り、すぐに教室を見ると、反対側の窓いっぱいに巨大な一対の目が見えた。
応利は咄嗟に、上鳴と瀬呂を掴んで廊下に引き倒す。焦凍と勝己が応利たちを挟むように立って腕を正面でクロスさせるのも視界の端に見えていた。
その直後、爆発音とともにガラスの砕ける甲高い音が響いたかと思うと、机や椅子が互いにぶつかりながら吹き飛ばされる轟音が満ちて、扉が吹き飛ばされて廊下の壁に激突した。吹き荒れる暴風が埃やプリントを宙に巻き上げ、耳も目も一瞬機能を停止したかのようだった。