木曜2限のヒューマニズム−4


真似したくなった応利は、二皿目の分の卵を夏雄を真似てやってみたのだが、なかなか難しく、フライパンを傾けて菜箸で弄るうちに別の卵料理に見た目が似てきた。


「おいスクランブルエッグ作ってんの?!」

「ちげーわ!やっべ、なんでだ!?」

「いいから火ィ止めろって」


すっかり堅くなってしまった卵は、形を崩せば完全にスクランブルエッグ、というか炒り卵だ。慌てて火を止めてチキンライスの上にのせたが、やはり堅くなっており、端の方に至っては羽根つき餃子の羽部分のようになってしまっており浮いていた。


「あーあー、これじゃ羽根つき炒り卵だよォ」

「トライ娘か」


某休日のワイドショーの料理コーナーに出てくるナレーションを真似て言えば、夏雄はツボに入ったのか爆笑していた。そんなに似ていたか、と引き出しを一つ増やしつつ、皿をローテーブルに運んだ。壁にくっつけてテーブルを置いているため、夏雄をカーペット側の広い方に座らせ、応利は壁にもたれて短い辺の方に座った。
応利は羽根つき炒り卵ライスの方を食べようとしたのだが、夏雄はひょいっとそちらを自分の前に置いた。ぽかんとして見上げると、夏雄はふわふわのオムライスを応利の前に置く。


「…いつも自分が作ったヤツ食ってるし、俺はこっちがいい」

「ええ…なんか恥ずいな…」


少し照れくさくなったが、それならと遠慮なく応利は夏雄が作ってくれた方のオムライスを口に運んだ。やはり見た目通り、卵は柔らかく、チキンライスのしょっぱさを包み込む。その味のコントラストと、後に残るチキンライスの塩気が食欲を誘った。


「うっま!超うまい!」

「ん、さんきゅ…応利のも、は、歯ごたえがあっておいしい」

「おいそれオムライスの感想じゃねぇだろ」

「ふは、確かに」


夏雄は基本的に優しいため、ちゃんとどう美味しいのか説明しようとしたばかりに、おおよそオムライスを食べたときの感想ではない言葉が出てきてしまい、自分で笑っていた。応利もさすがにおかしくなる。
そうやって食べ進めていくと、おもむろに「でもさ、」と夏雄が口を開いた。


「なんか、ほとんど誰かに目の前で自分が作ったもの食ってもらうことなかったから、なんか照れるけど嬉しいかも」

「っ、」


思慮深い夏雄は空気を読むことも大事にする。少なくとも友人の前ではそうだ。だから、こんな含みのある言い方をすることはない。言葉通りなら、作ったものを一緒に食べる相手がひどく限られている。夏雄の家には、姉と弟の焦凍、そして両親がいるはずで、家族の多さを考えればそんな言葉は不自然だ。そして応利が不自然だと思うと分かっているのにこういう言い方を躊躇わなかった。


「……なんで。お姉さんとか、焦凍君とかと一緒じゃねぇの」


それならば、聞いてやるべきだ。夏雄は今、家族の話をしようとして応利にこういう言い方をしたのだ。だから、話したければ話せばいいという意味を込めて聞いた。夏雄は薄く笑うと、食べきった皿にスプーンを置いた。ちょうど応利も食べ終えていて、どうしてか音が鳴らないようスプーンを皿に触れさせるように置いていた。


「…焦凍と…父親は、俺や姉ちゃんが住んでる部分には来ねぇの。無駄に広いからさ、あいつ、成功作の焦凍だけは俺たち失敗作に関わらせようとしなかったんだ。そんで母さんは入院してる。だから、普段姉ちゃんとしか飯食わねぇんだ」


エンデヴァーのことを「父親」「あいつ」と他人行儀で呼ぶ夏雄は、間違いなく、普通の父親に向けるような感情ではない。諦めたようなその凪いだ表情は、無関心が一番近い。


「……成功作とか失敗作ってのは、個性婚のこと?」

「そう。母さんの氷の個性と、自分の炎の個性。両方を持った子供を欲してたんだ」


両親・祖父母世代で問題になった言葉だ。結婚の基準に個性を用いる婚姻のことである。体育祭での様子や焦凍の個性を鑑みれば想像にたやすい。
エンデヴァーは苛烈な性格で有名だったが、まさか家族に対してそこまでだったとは思わなかった。これまでヒーローのことをなんとも思っていなかった応利だが、ヒーローも人間なのだな、とそんなことを思った。人を助ける誰もが聖人君子ではないのだ。


prev next
back
表紙に戻る