お騒がせ会見−2


そんなある日。
いつも通り、事故現場での救命を終えて報告書を事務所で書いていると、同僚の相棒である女性がいそいそとやって来た。すでに退社時刻、応利のようにぎりぎりで任務にあたったわけでもないこの相棒がいまだにいることに疑問を覚えながら手を止めた。


「ちょっと見てくださいよパスカルさん」

「なに?」

「これこれ、爆心地がスプリング砲食らったんですよ」


そういいながら、相棒は週刊テキストスプリングの雑誌を応利のパソコンの前に置いた。開かれたページには、でかでかと「ヒーロー爆心地、二股疑惑!」とゴシック体の文字が躍る。明朝体クラスタの応利の好みではない見出しだ。


「今晩、これから爆心地の会見あるんですよ!パスカルさんなんか聞いてないんですか?噂とか」

「聞いてないし興味もない…仕事してないならタイムカード切って早く退社しな」

「はあーい、じゃあお疲れ様です!」


相棒は引き際をよくわかっているのか、さっさと退社した。雑誌は置いて行かれたままだ。ちょうど部下の報告書に捺印するのに台にしてから捨てようと、ちらりとページを見た。
どうやら、爆豪が曜日を変えて2人のモデルと女優と密会していたところを写真に撮られ、その2人の女性に直接取材した記者が記事を書いているようだ。2人とも、含みのあることを言って記者を交わしたことから、揃って爆豪の愛人ではないかと記事は結論付けていた。


「あいつみみっちいんだから、ありえないだろ」


爆豪のみみっちさはA組に定評がある。こんな詰めの甘いことをする男ではない。だが火消しにすぐ会見をするあたり、この事態を軽く受け止めたわけではないようだった。人気商売の側面もあるのだ、当然ではある。


「…ちょっと、気になるかも」


どんなことを言って会見をするのか、爆豪の様子が少し気になった。帰ったら酒の肴代わりに見てやろうと思っていると、スマホが鳴った。私用のものだ。
画面を見ると、意外にも当の爆豪からの着信だ。


「…もしもし」

『おい、今すぐメールする住所のホテルに来い。名乗れば受付が勝手に部屋に案内する』

「はぁ…?お前スプリングにすっぱ抜かれて会見だろ?」

『その会見するホテルだ。いいからつべこべ言わず来い、じゃねぇとお前のアホ面晒した寝顔写真を呟くぞ』

「この凶悪敵め、次会ったら成敗してくれる」

『ハッ、やってみろバーカ』


ぶつりと通話は切れる。こうして呼び出されることは初めてではないが、今日はちょっと特殊な状況だ。なぜ会見場になっているホテルに呼ばれるのだろうか。
だが有言実行のあの男は、きっとSNSにいつ撮ったか分からない応利の寝顔写真を投稿するだろう。それは避けたい。そろそろ報告書も終わる、ホテルはメールを確認したところ遠くないようなので、応利は仕方なくホテルに向かうことにした。

印鑑をいつもより強く押して、台にした雑誌を見る。爆豪の顔に赤いインクが滲んでいて溜飲が下がるような気がしたが、むなしくなって立ち上がった。ふとスマホでメッセージアプリを開くと、A組グループに案の定、爆豪がすっぱ抜かれたことを笑うメッセージがあいついでいた。
やはりあのみみっちさを知っていることから、皆信じてはいないようだ。
峰田の「世からイケメンがひとり消えるなら祝杯不可避」というポストに続き、応利も「なんか爆豪に呼び出されたから会見場のホテル行ってくる」と載せた。すぐに既読がつくが、皆なぜこんなことをしているのか分かっていないようだった。

「ひょっとしてあいつ、」という切島の投稿は、直後に爆豪が「黙れ殺すぞ」と珍しく発したため止まってしまった。訳知りげな様子に応利だけでなく皆も気になっているようだったが、それ以降爆豪や切島、さらに爆豪と仲の良かった上鳴、瀬呂なども黙ってしまい分からずじまいだ。
とりあえず向かおう、と応利は追求を諦めてホテルへと行くことにしたのだが、それを後々ひどく後悔することになる。


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