お騒がせ会見 デート編−2
一通りクラゲを見て回ると、唐突に緑谷は「自撮りしよう」と言い出した。そういうことに疎い緑谷が言うのは珍しかった。
「どした緑谷」
「思い出に!」
特に断る理由もないので、応利は頷いて緑谷とカメラに収まった。なぜか礼を言われてから、2人は水族館を後にする。
集まったのが遅い時間だったこともあり、外は夕暮れになっている。空にオレンジの色が濃く、東の空は藍色だった。
「応利君、こっち来て」
「…?あぁ、」
すると緑谷は、そう言って応利を人気のない路地裏に連れて行った。水族館からそう遠くない雑居ビルの隙間だ。いったい何を、と思ったとき、緑谷は路地の入口を指さす。
「あっち見てみて」
「…、なんだよ…」
とりあえず言う事を聞いて後ろを向いてみると、突然、緑谷は応利の膝に自身の膝をぶつけて来た。いわゆる膝カックンである。もろに食らって、応利はがくりと体の力が抜ける。
「わっ、」
「ちょっとごめん!」
言うなり緑谷は、バランスを崩す応利の体を受け止めがてら横抱き、つまりお姫様抱っこし、そのまま一気に路地の上空へ飛び出した。
「っ!?」
突然の急速な上昇と、耳元を過ぎる風、勢いよく下になっていくビルの壁面。時折ビルの途中を蹴りながら緑谷はどんどん上に飛び上がり、やがて雑居ビルの20階ほどの屋上にたどり着いた。
ようやく上昇が終わったことで、応利は知らず掴んでいた緑谷のジャケットから手を放す。
人が立ち入ることを前提としないような屋上のコンクリートに足をつけると、応利はけろりとする緑谷を睨みつけた。
「っ、いきなり何すんだよ」
「ごめん、手荒な真似して…でも、君にこれを見せたくて」
そう言って緑谷が示すのは、西の方角。
そこには、大都市東京の街並みが延々と続き、やがてそれは県境の山間部から富士山へと続いていた。黒いシルエットとなって、新宿のビル群の向こうに見える富士山。そこには夕日が沈みつつあり、燃えるようなオレンジの色が空を染めていた。
「…すげ」
「でしょ?前にこの辺りで仕事があったとき、たまたまこのビルの上に上ってさ。そのときも景色が良かったから、応利君に見てもらいたかったんだ」
「普通にそう言えばいいだろ」
「それはごめん」
思慮深い緑谷にしては変な行動だが、綺麗な光景なので良しとすることにしてやった。
徐々に街並みには明かりがともり始め、その光もまた美しかった。
しばらく静かになった後、緑谷がおもむろに口を開く。
「僕さ、君のこと、本当に好きなんだ」
「…何、いきなり」
何を言うかと思えばそんなことで、応利はそちらに視線を移した。そこには緑谷があまりに真剣な顔をして立っていた。
しかと目が合い、その深い瞳がじっとこちらを見据える。
「最初は、強い個性を上手に使いこなす応利君がすごいって思って、その強さに惹かれた。クールなところも格好いいし、でも努力を怠らずに負けず嫌いなところも好き。そのわりに甘党なのもギャップがあって好きだし、動物ものの映画で泣いちゃうところも可愛くて好き」
「な、ちょ、何言って…」
そして突如として緑谷は応利の好きなところを言い始めた。面と向かって言われるとあまりに恥ずかしい。やめさせようとしても緑谷は止めない。
「実は仲間想いなとこ、気を許した相手には対応が適当になるとこ、言動が意外と荒っぽいとことかもいろんな面があって好き。人に興味がないようで、きちんと人のことを受け止めてくれる優しさも。そして何より、ヒーローとして絶対に妥協しない心の強さが好きだ」
空の半分はもう群青になった。それでも西から指す赤みがかった光が照らす緑谷の真摯な顔と言葉に、応利の顔が火照るような気がするが、あくまで光が当たっているからでしかないはずだ。
「……俺も、緑谷の、無条件で頼れちゃうような底なしの優しさは、好きだよ」
「っ、応利君…!」
「別にそういう意味じゃねぇからな!ほら、早く帰ろう」
きちんと言葉をくれた緑谷だから、ある程度は応利も誠実になろうと思った。そうして言った言葉に緑谷は極まったようにするが、あくまで友情の話だ。ふいと顔を背けてやると、緑谷はそれでも嬉しそうにしていた。
しかしその後、今日の写真とともに自撮りしたものがLOVE FOREVERと加工されてSNSに載せられていたので、次に会ったときに低気圧の刑に処したのは言うまでもない。