お騒がせ会見 デート編−4
そうしてやって来たのは、都心の高級ホテルだった。その高層階にあるレストランを予約してあるのだという。
すでにSNSは轟と応利が馬に乗って都心を移動していると大騒ぎだ。意外とメディアを交わす工夫は轟もしてくれて、様子を見て道を変えてはカメラに映らないようにしていた。
それなら最初から車で来いと思った応利である。言ってもムダだとも思って言わなかった。
馬はさっと現れた轟の事務所の相棒たちが引っ張っていった。もう何も言うまい。
轟に連れられ、応利はホテルの高層階へエレベーターで一気に上がる。どうせ奢りだろうから、高いワインでも頼んでやろうかと考えながらいると、エレベーターはレストランの階で止まる。
下りてすぐにスタッフが優雅な一礼をして迎え、2人は個室に通された。個室と言っても、壁の一面が全面ガラス張りになった部屋で、少し薄暗い部屋はとても雰囲気が良かった。
何より、壁一面に広がる窓から見える夜景が素晴らしい。
「うわ…すごい」
「…そうだな」
都心の無数の輝きがどこまでも続く光景に、思わず立ったまま見惚れた。
だがすぐに、応利が座るために椅子を引いて待っているスタッフを思い出し、応利は椅子の前に立って席に着いた。
轟もそのあとに座ると、ワインのメニューをスタッフから渡される。応利は別のメニューだ。
そのメニューには値段が書かれていなかった。欧州などでもそうだが、格式がかなり高いところだと男性にしか値段の書かれたメニュー表を渡さない場合がある。今回は、轟が事前に言ってあったのだと推測される。
高いのを選ぶということができないが、ここに並ぶものはもれなく高いということでもある。それなら、純粋に美味しいものが良い。
「決まったか?」
「今日の料理に合うものでいいです」
「承知いたしました。メインは何になさいますか?」
スタッフに示されたものからローストビーフを選んで、轟もステーキを頼む。じきに前菜とともにワインが来るだろう。
いったんスタッフが下がって、部屋には2人だけになった。
「で、なんでこんな真似してんの?」
「特に理由はねぇ。しいて言えば応利のことが好きだからだ」
「ほんと直球だよなお前…」
普段迫ってくる3人の中で一番ストレートなのが轟だ。天然だからだろうが、一番ストレートなくせに一番変化球を投げてくるのもこいつだ。白馬はヤバイだろう。
だがこうして高い店を奢られるのは悪くない。機会がないと自分では行かないだろうことを考えると、良い機会だと割り切れる。
そうしてやって来た料理はどれも最高に美味しいものばかりで、ワインも驚くほど美味しかった。キャンドルの炎が明かりとして揺らめくおしゃれな空間で、この上なく美味しいものを口にできるのは贅沢なことだと思う。
正面のスーツ姿のイケメンがこれをしているのだ、迫られているのが女性だったら一瞬で落ちていただろう。それほど、夜景の見えるここは素晴らしい店だった。
「…ほんと、綺麗だな、ここ」
「……お前の方が綺麗だ」
「綺麗って…何言ってんだ」
「女みてぇってわけじゃねぇ。綺麗なモンを素直に綺麗って言えるところが俺は好きだ」
目を見てはっきりと言われてしまえば、どうしても意識せざるを得ない。本気の言葉は、そういう力を持っている。
「…ま、俺も轟の一緒にいて飽きないところは嫌いじゃない」
「本当か」
応利もそう言ってやると、珍しく、轟は嬉しそうに顔を綻ばせた。イケメンにここまでさせて、こんな顔をするほど愛されているなど、自分で自分が罪深いな、と思う。まったく自慢ではない。
だが、こうも素直に想いを寄せられると、少しは嬉しいという気持ちも沸くものだ、と言い訳のように思った。