お騒がせ会見 デート編−5
スーツを着て白馬に乗り高級ホテルのレストランに入ったという話は、瞬く間にSNSやメディアで広がり、またも世間を賑わせた。勘弁してくれ、と思いながら、応利は今度は爆豪に呼び出されていた。毎週別の男をとっかえひっかえしているとんでもないヤツのようだ。
本当は行きたくはなかったのだが、ここで緑谷と轟には応じなかったのに爆豪は断るとなると、爆豪を傷つけてしまう。意外と繊細なのだ。
そういう気遣いをしてしまうあたり、自分でもお人よしなのかと呆れてしまうが、大事な友人が落ち込む姿がちらつくより遥かにマシだと思った。
待ち合わせ場所の繁華街の広場にやってくると、すでにそこには爆豪がいた。変装するな、なんて言われていたので応利は私服でマスクもしていないが、爆豪もまたメガネなどはしていなかった。
ダークレッドのVネックシャツに黒いロングジャケット、ジーンズにロングブーツと正直めちゃくちゃ格好いい。有名人の格好いい私服姿に人々が遠巻きに見ているが、誰も話しかけない。怖がられているからだ。
一方で応利はあちこちで声をかけられた。「今日は爆心地とデートですか!」なんて言われて何と返せばよかったのか今でも分からない。
「お待たせ」
「おせ…ぇわけではねぇけど待ってねぇ」
「日本語おかしくね?」
爆豪にしては不明瞭な言葉だが、特に気にせず爆豪の隣に立つ。途端にあちこちからシャッター音が鳴り響いた。
「…いいの、本当に変装しなくて」
「いんだよ。見せつけねぇと」
「…ま、いいけど。で?マジでデート?」
緑谷たちが話題になったから、爆豪としては世間に見せつけたいのだろう。みみっちい彼らしい。
そこで本題を聞いてやれば、爆豪は一瞬言葉に詰まったあと、頷いた。
「うわ、正直だな」
「うる……さくねぇ」
「どういうこと」
なんだか今日は変だぞ、と思っていると、爆豪はこちらに向き直る。
「いいか、よく聞け。今日は俺は、一切お前に暴言を吐かねぇ」
「お、おう、そうか」
「そんで、今日一日、俺はお前の下僕をやってやる」
「は?下僕?」
いったい何だというのか。暴言を吐かず一日下僕など、呼吸を止めろというのと同じことだ。爆豪にとっては、だが。
「賭けに負けたかなんか?」
「ちげぇ、別に何でもねぇよ。とりあえず、今日はお前の言う事全部聞いてやる」
「…なるほど、それでデートね」
いう事を聞くにしても、機会がないと意味がない。わざわざ繁華街でデートのような形を取ったのは、応利が爆豪に色々と命じやすくするためだろう。応利としてもいきいなりそんなことを言われても、というところがあるので、とりあえず分かりやすいところからやることにした。
「爆豪、俺あれ食べたい、幸福のパンケーキ」
「…わかった」
爆豪はさっとスマホで調べると、すぐに応利を連れて歩き出した。本当に応利の頼みを二つ返事で聞いてくれるらしい。これは面白いぞ、と応利は少しワクワクする。あまり無茶ぶりで困らせたいわけでもないが、ただ応利の頼みを何も言わずに遂行する才能マンの姿を見てみたいと思った。
爆豪は最短経路でパンケーキの店にやってきた。まるでスフレのように柔らかいと評判のパンケーキの店はいつも混んでいて、週末ということもあって行列ができている。
別のところにしようかな、と思っていると、突然列の女性たちが2人に気づくなりさっと前を示した。
「ついに爆心地とデートなんですねパスカルさん!」
「良かったね爆心地!」
「先行ってください!」
女性たちは2人に気づくなりどんどん列の前に送っていき、あっという間に2人は最前列になっていた。色めく女性たちに見送られ、ほとんど待たずに入店する。変装しないよう言ったことの真意はここにあったのかもしれない、とうっすら感づいた応利だった。