此処にましませ−3
「普通の人間の霊力が、一番安い数ギガのUSBだとすると、お前の霊力は世界最新鋭のスパコン3機分ぐれぇになる。でかい神社の神官でせいぜいスマホやガラケーってとこだ」
「た、例えが今風…」
「時代が変われば神も変わる。祝詞をボカロにやって欲しいって言ってる神もいたぞ。鏡餅リン的な名前のヤツ」
「うわぁ、リン廃はさすがにガチ…」
意外と人間の営みを見ているものだ。
変なところに感心してしまったが、そもそも応利の力がとんでもないという焦凍の言葉に驚くべきである。
「…で、俺のその力欲しさに、契約なんてことを始めたわけ?」
「そういうことだ。俺が目ぇつけたときはまだお前も子供だったから、取り急ぎ父親と契約しといた。そんで今、常人である父親は限界が来て死にそうになっているわけだな」
「焦凍の私欲じゃん」
「だがお前の父親は俺の力を使って祓い屋みてぇなことして金稼いでたぞ。それがなきゃ、今頃お前らはこの神社を手放してたな」
どうやら、このしがない神社の経営はそうとうまずいところまで来ていたらしい。それを、父親も渡りに船と焦凍との契約で立て直したということだ。
「父さんは、俺を目的にしてるって知ってたの?」
「いや?そんなん言ったら契約しねぇだろあいつ」
「……そっか、」
だが父は、応利を本来の目的にして焦凍が接近してきたとは知らなかったらしい。それを聞いて、少し安心してしまった。応利のことを愛してくれているのは分かっているから、それが嘘でなくて良かった。
そんな様子に気づいたらしい焦凍は、微笑んで応利の頭を撫でる。
「かわいい」
「…いや、何言ってんの。てか、俺の力が欲しいんだろ、別に契約なんてしなくても…」
「俺は神使だぞ、んなひでぇことはしねぇよ。それに、お前の力が欲しかったのはきっかけでしかねえ」
そういうと、焦凍は応利の手を掴み、自身の左目あたりに広がる火傷跡に触れさせた。引き攣ったような肌は、神使には似つかわしくないものだ。
「…かつて俺がまだ普通の狐だったころ、人間にいじめられてこの火傷を負った。見返してやろうと修行して強くなるうちに、いつの間にか神使にまでなってた。別に悪さしようとは思ってねぇけど、それでも、人間を見下せる立派な神使として、白狐の中でも上位をひたすら目指してた」
本当は治せるだろう跡を残しているのは、人間へのほの暗い気持ちを忘れないためなのだろう。そんな攻撃的な理由で神使まで上り詰めた焦凍が、力を持つ応利に目をつけるのは不自然なことではない。
「お前と契約してお前の力を使う中で、俺自身も更に強くして九尾になろうって思ってた。でも、そのためにこの神社に来て、お前と父親が接しているところ見てるうちに、いつの間にかお前自身を欲しいと思うようになってた」
「え……」
応利の解釈が間違っていなければ、それは恋というやつだ。さすがに、神の使いにはない概念だろうし、悠久を生きる者には縁のない感情だ。
「これが恋ってヤツなんだなってすぐわかった」
「分かったんかい」
「?おう。だからお前を永遠に生かすためにも契約しねぇとって思った」
「えええ」
さすが現代のことを深く理解している神使だ。恋している自覚はあるようで、しかもそのために応利を人でなくそうとすらしている。
「別に永遠に生きてたくなんて…」
「契約したら、お前の力が尽きるまでお前は生きられるぞ。その姿を保って。ちなみに、どんなに激しく力を使ってもあと1000年は余裕で持つし、それは力の回復がなかった前提だ。普通に回復する分考えりゃ、事実上永遠の命だな」
「インフレしすぎじゃね?ドラゴンボールかよ…」
自分の力が大きすぎる事実にドン引きである。
しかし、契約しなければ父が死んでしまう。それに、契約が続いたらの話だ。応利が契約をする前提でないと焦凍も父親との契約を切ることはないだろうし、ここはさっさと折れて置くべきだ。
「契約の破棄は…」
「俺からならいつでもできる」
「で、できるならいい…わかった、父さんのことが心配だから、とりあえず契約しよう」
「そうか」
焦凍は嬉しそうに微笑む。恋した、なんて言っていたことはさすがににわかには信じがたいが、そうやって嬉しげにする神使を見ると、応利も悪い気はしなかった。