此処にましませ 悪霊の駅−3


男は、西野といって、都内の私鉄駅の職員であるらしい。
寂れた小さな駅で、人手不足もあって常駐しているのはこの西野1人だということだ。

ここ数年、駅では謎の現象が度々起こる様になり、今では社内でもすっかりウワサの駅になっていた。具体的には、モノが勝手に移動したり落ちたりする、扉が勝手に開く、物音がするなどの軽いものだ。
しかし最近はそれが急激に悪化しており、替えたばかりの電灯が瞬くことが頻繁になり、さらに夜には駅の利用者が不自然に同じ場所で転ぶことも増えたのだという。ネットでは駅での怪奇現象として徐々に注目度が上がっているようだ。


「それから、深夜の夜勤には、構内を歩く音が毎晩するようになりました。しかもそれは、だんだん、日ごとに事務所に近づいているんです…他の職員も怖がって、やめて職員までいて…も、もう、今晩には事務所のある廊下まで、歩く音が来てもおかしくないんです…!」


西野はだんだんと感情が高ぶったのか、頭を抱えて肩を震わせた。「もう、耐えられない…!」とか細く中年の男が言うのだ、異常な事態である。
父を見ればやはりこちらも痛ましそうにしている。

依頼のこととか、自衛のこととか、色々と考えるという意味はある。しかし今、応利の中にあるのは、目の前のこの人を助けたいという思いだけだった。


「…父さん、俺、できることがあるならやりたい」

「応利……」


応利にはありあまる力があって、頼もしい2人と契約している。今目の前で困っている人がいて、自分にできることがあるのかもしれないのなら、まずは助けたいと思うのが普通なのではないだろうか。


「…応利、焦凍君は今、ここにいるのかい」

「いるよ」

「……息子を、頼みます」

「当然だ」


焦凍の声は聞こえないだろう。しかし、父の真摯な言葉に、焦凍もそう応じた。「大丈夫だよ」と応利は父の手に自分の手を重ねて言った。


「安心して……西野さん、今日にでもやりましょう。終電が終わった時間から開始でいいですか?」

「は、はい!ありがとうございます…!」



***



深夜23時半、終電が終わり、乗客も全員いなくなった駅の構内。明かりが点けられているが、辺りには人影がないだけで、駅とはかくも不気味なものになるのだな、と思う。
西野以外の職員は帰り、西野は車で神社まで迎えに来てくれた。それに乗って駅へ到着してから、応利は西野に連れられて駅の事務所に入った。

簡素なつくりの部屋には、雑多にデスクが並び、監視カメラのモニターが光る。西野はその画面を見ながら、怪奇現象について再度説明を始めた。


「一番報告が多いのは、ここです」

「…コインロッカー?」

「はい」


画面の1つ、それは駅の改札外にある南北自由通路だった。駅の北側と南側と地下でつなぐ通路で、古い駅なこともあって通路も古めかしい。
床のタイルは端の方が薄汚れ、壁にはタイルで模様が描かれているがそれも汚れており、真新しい広告パネルで誤魔化されていた。

画面の中央、通路の真ん中の壁際に鎮座するのは、小さな駅には不釣り合いなほど大きなコインロッカーだった。


「昔、このロッカーに赤ちゃんが捨てられた事件があったんです。2件続けて起きて、両方とも赤ちゃんは亡くなっていました。怪奇現象が起こるようになったのは、それからです」

「時間帯は?」

「例外的に、自由通路のロッカー前でお客様が同じ場所で転ぶときは22時以前ですが、普通は終業後、日付が変わる前後…ちょうど、今くらいからです」


時計は24時を指そうとしている。男は椅子に座って、恐怖に震え始めた。


「ホームで物音がしてから、いつも始まるんです」

「そんな規則性が…」


応利はホームの監視画面に目をやる。二つあるそれを見ていると、突然、ホームの椅子の上に何かが落ちた。
がしゃん、という小さな音がここにも聞こえてくる。


「っ、」


それは、足だった。


「……コインロッカーの赤ちゃんの話だけじゃ、ないんじゃないですか」

「え……?」

「だってあれ…」


どう見ても、大人の女性の足が、力なく椅子の上に落ちていた。


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