此処にましませ 悪霊の駅−4


さらに、構内の方から確かに何かが歩くような音が聞こえて来た。それはこちらに向かって近づいてくる。


「ヒィッ!」

「来たな」


勝己は短く言って事務所から構内の方を向いた。まだ音は遠いところにあるが、ゆったりとした速さで歩いてくる。複数相手がいるのだとすれば、これが初めての場となる応利にとっても少し心理的負担が大きい。

正直、椅子の上にぼとりと落ちた生足だけで心臓がバクバクと言っていた。画面に目を戻すと、足は椅子の上で立ち上がっていた。勘弁してくれ、と思いつつ、今ここに近づいてきている者の正体は見て置く必要がある。

応利は事務所の扉へ向かう。西野はびくびくとしながら応利を見守った。
扉のドアノブに手をかける。音が近くないことを確かめてから、そっと、扉を開いた。
軋む音とともに開く扉を開けると、非常口の明かりと外の街灯の明かりだけが差し込む薄暗い構内に、動く影があった。目を凝らすと、その形がくっきりとする。


「う、わ…!」


歩いてきているものだと思っていた。
しかしそれは、頭だったのだ。女性の頭だけが、ボールのように1メートルほど弾みながら、床にバウンドしてこちらに向かってきている。長めの髪がバウンドする度に振り乱れ、回転している頭は着実にこちらに迫ってきていた。

そして、その頭の目と、目が合ってしまった。
まずい、そう思った瞬間には、頭はバウンドをやめて突如として猛スピードで床を転がって来た。ごろごろと転がる頭の双眸がこちらを睨む。


「応利!」


勝己は慌てて応利を後ろに抱き寄せるとと扉をしめた。
直後、扉にバーン!と何かがぶつかった。それが何かなど、もう応利には分かり切っていた。西野の悲鳴が響き、さらに扉に硬いものがぶち当たる。


「応利、『結』だけでいいから唱えろ、俺の模様に手を当てんだ」

「わかった、『結』!」


右側の鎖骨の模様に手を当てて言うと、扉への物音がしなくなった。この部屋全体に結界が張られたのだ。応利を後ろから守る様に抱き締める勝己の温もりがなければ、あの恐ろしすぎる光景に腰を抜かしていただろう。


「な、んだあれ…」

「チッ、なんつー駅だ…おい応利、『結』みてぇに、力を発揮する神使の模様に手を当ててコマンド唱えりゃその通りになる、ゲームみてぇなモンだ」


例によって今風のたとえが非常に分かりやすい。応利は頷くと、勝己にコマンドをすべて一通り教えてもらった。


「MPみたいなのないの?」

「お前のMPは初期値9999みてぇな感じだから気にすんな」

「なにそれこわ…」

「あ、あの、先ほどから誰と会話を…?」


すると、見ていた西野が恐る恐る聞いてきた。やべ、と思ったが、依頼主だから大丈夫か、と応利無理やり納得させる。少し気恥ずかしい気もしたが、そうも言っていられない。


「契約してる相手がいるんです。これからそいつらとこのダンジョン攻略に行くんで、ここで待っててください」

「ダンジョン…?ま、まぁ分かりました」


つい応利もつられてゲーム的な思考になってしまった。西野は戸惑いつつ、もう理解できないことだと割り切ったのか、思考を放棄した。
応利は引き続き勝己の方である右に手を当てて唱える。


「『索』」


その瞬間、肌で、どのあたりに霊が存在するのか感じられた。別に場所を俯瞰しているわけでもないのに、すぐに正確な場所が分かったのである。


「ホームに1人、構内に1人、通路に…なんだこれ」

「ありゃ集合体だな。まとめて叩く必要がある」

「…焦凍、範囲攻撃得意でしょ」


おもむろに焦凍に尋ねると、焦凍は頷く。2人の力を辿ると、何となく2人の力がどういったものか分かったからだ。


「勝己、ホームと構内の単独でいける?」

「物理攻撃になるがいける」

「じゃあ、『然』…焦凍は一緒に自由通路に行こう」

「分かった」


勝己に自由行動を許可する指示を出してから、応利は焦凍と並び立つ。2人はこれから大元を叩きに行くのだ。ホームの生足と構内の頭は勝己に任せ、終わり次第こちらに来てもらう。


「…よし、じゃあ行こう」


本当はこんな扉開きたくなかった。それでも、一度助けると決めたのだから、応利は勇気を奮い立たせる。2人はそこまでする応利にちょっと呆れていたけれど、いつもより近くに立ってくれていた。
この2人が一緒だから、応利は今、ここに立っていられる。


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