此処にましませ 悪霊の駅−5


構内に出るなり、ジャンプする頭に勝己が殴り掛かる。その横を通り抜けて、急いで2人は改札を出て外の自由通路への階段を駆け下りた。

すでに階段から邪悪な気配が立ち込めていて、降りるごとにその濃度が濃くなりくらりとする。

なんとか一番下まで来ると、30メートルちょっとある直線の通路がどこか薄暗かった。
天井には定間隔で蛍光灯がついているが、チカチカと元気がない。床や壁のタイルの薄汚れた感じがや、白々しい広告パネルが更に不気味さを駆り立てた。


「…、」

「大丈夫だ応利、俺がついてる」


思わず足がすくむと、焦凍は優しく応利の肩を抱いた。尻尾の1つが腰を撫で、ふう、とひとつ息を吐く。
そしてそのまま歩き始めると、徐々に蛍光灯の瞬きが激しくなっていく。前方には例のコインロッカーが構えていて、それ以外に特に変わったところはない。

恐る恐る進んでいくと、やがて蛍光灯の瞬きがストロボのように明かりと暗闇を交互に作り出すようになった。一瞬で真っ暗な視界と通路が繰り返される。

すると突然、明るくなった瞬間にロッカーの前に女が1人立っているのが見え、直後に真っ暗になり、再び明るくなると女が僅かにこちらを向いていた。
また暗くなり、すぐに明るくなると、もっとこちらに体を向けている。それを繰り返し、徐々に女の顔が見えるようになっていく。
思わず右側の焦凍の服を掴む。

そしてもう顔が見える、という瞬間、一気に通路は明るくなった。そしてそこには女はいない。
いったいどこに、と思った瞬間、キィ…とロッカーの1つが開いた。ゆっくりと開いていくロッカーを凝視しているときだった。


「なんで」


耳元で聞こえる女の声。ぞわりとして振り返った瞬間、後ろから一気に応利の首を何かが巻き付いた。髪の毛だ。ロッカーの開いたところから、大量の髪の毛が伸びてきて応利の首を締めあげていた。


「応利!」

「ぅぐ…ッ!?」


肌に食い込む細い髪の毛に、痛みと苦しみが襲い掛かる。首を絞める髪の毛を外そうと掴むが、細くて外せそうにない。

苦しくて焦凍のことも呼べないと気付いた瞬間、焦凍が自ら手に氷を纏って髪の毛を引き裂いた。普通なら髪の毛を下に引っ張るだけだが、なぜか焦凍の氷は髪の毛を綺麗に切断したのだ。
応利の首に絡みつくものは力なく床にはらりと落下し、急いでそれを外すと応利は焦凍の側に駆け寄った。


「大丈夫か!?」

「げほっ、はぁ、大丈夫」


女は俯いたままこちらを見ない。さらに背後から邪気を感じて振り向くと、ロッカーの前には数人の男女が同じように生気のない顔で立っていた。虚ろな真顔ほど恐ろしい表情はない。


「恐らく自殺者の霊魂の集合体だ。単体じゃ力がないが、恐らく何かに吸い寄せられて合体したんだろ」

「何かって…あれだよね」


応利が指さすのは、ロッカーの前、大人たちの足元にうずくまる2人の子供だった。少年と少女で、年齢はどちらも4、5歳くらいだろうか。


「たぶんな」

「…ロッカーに捨てられた赤ちゃんの霊が育ったってとこかな。それに自殺した大人の霊魂が集まってる…?」

「俺もそう踏んでる。とりあえず、全員まとめて祓えるぞ」


やけに落ち着いた態度の焦凍は、これくらいの霊なら簡単に祓えるという。しかし、うずくまる子供に応利はそれをしてもいいのか迷った。
なぜならあの子供たちからは邪悪なものを感じないからだ。邪悪なのは周りの大人の霊魂だ。


「…大人の霊だけ祓える?」

「できるが…何すんだ?」

「何ってのがあるわけじゃないけど…とりあえず頼む」

「…あぁ」


応利は左側の模様に手を置く。大人たちの霊魂を意識して、「『滅』」と唱えた。その瞬間、焦凍はロッカーの前の大人たちと近くにいる女を全員凍らせた。
聖なる氷に閉じ込められた霊魂は、それぞれが断末魔を上げながら消滅していった。あまりにあっけないが、勝己が言っていたように、焦凍の技は疲れを感じた。


prev next
back
表紙に戻る