此処にましませ 堕ちた神−3


ガタンガタン、と揺れる電車内。
父が入院している病院から帰宅するため、応利は電車に乗っていた。時間はまだ昼間、平日であることや、この路線が単線のローカル鉄道であることもあって、車内に人はいなかった。

車窓は緑が多い住宅街で、すぐ向こうに山が連なるのが見える典型的な田舎だ。ここが東京都だとは信じられないような気もする。
山間の田舎町だと駅と駅の間が長く、先ほど駅を出てからかなり走っている。スマホを適当に弄っていたが、あと10分は応利が下りる駅まで着かないため、少し寝ることにした。
どうせスマホを弄っていても、友人のいない応利はすぐ飽きてしまう。

日中で、しかも少し病院に行くだけなので、勝己と焦凍もいない。神社に置いてきた。すぐ呼び出せることもあって、応利は今日は1人での行動だ。
1人など慣れ切っていたはずなのに、ここ最近で一緒に暮らすメンバーが増えたからだろう、誰もそばで喋っていないのが静かに感じる。

もう一度、扉の上にあるレトロな細長い電光板を見て、次の駅を確認する。都内の鉄道のかなりの路線が、扉の上にテレビ画面がついている。この路線は必要ないだろう。
まだ次の駅まで時間があることを確認して、応利は目を閉じた。



***



ふと目を覚ますと、妙に明るさが目についた。車内の電灯の光である。何かと思って顔を上げると、愕然として思わず目を見張る。

正面の窓の外は、真っ暗だったのだ。


「は、夜!?」


慌ててすぐ後ろにある窓を見ると、やはり空は暗く、田舎の車窓は真っ暗だった。
もう秋も終わる、あまりに寝すぎたらしい。とにかく次の駅はどこなのか、扉の上部の画面を見やる。


「…は?」


そこに表示されていた文字列を凝視する。見間違いではない。


『谺。縺ッ 縺阪&繧峨℃』

「……いや、おかしいだろ」


そう、慌ててしまって気づかなかったが、何もかもおかしい。
まずいくらなんでも寝すぎだ。昼間に電車に乗っていて、そこから日が沈むまで乗っているなど。さすがに駅員だって、ずっと車内で寝ている乗客がいたら注意する。3両編成のこの電車なら尚更だ。
何より、文字化けしたまま動かない電光板が異常だった。

さらによく車窓を見てみると、本来ならうっすらとでも何か見えるものが何も見えないし、こんなにも長く建物の明かりが見えないのもおかしい。

これは何か、いわゆる超常現象に遭遇していると考える方が自然だ。


すると、電車は急に減速を始めた。当たり前だが、アナウンスなどはない。やがて、窓の外には人工的な明かりが飛び込んできた。まるで地下鉄だ。
どうやら駅のようで、電車はどこかに停車するらしい。文字化けしていて分からないが、プラットフォームは明らかに駅のそれである。


「…降りる方が、いいか」


このまま乗っていたらどこへ連れていかれるか分からない。もう遅いのかもしれないが、降りた方が良さそうだ。ずっと真っ暗な中を走らされるのも気が狂いそうだ。
応利はそう判断し、扉が自動的に開くと、明るい電車を降りた。

ホームは1つだけ、無人だった。ローカル路線の古めかしい、単線のホームである。
だが、自動販売機やベンチ、鉄製の柱など、きちんと現代のものだった。電車が止まっているのと反対側は、単線なので線路はなく、木組みの柵がある。その向こうには、かすかに住宅地の明かりらしきものも見えた。
ひょっとして思い違いだろうか、と思って天井から下がる看板を見る。


『縺阪&繧峨℃』

「変わらないか…」


やはり、駅名は文字化けしている。
前の駅は『豁、蟯ク』、次の駅は『蠖シ蟯ク』とある。駅名を示す看板らしいゴシック体のフォントで文字化けしているのは異様だ。
そこへ、電車の扉が閉まる空気音が響いた。すぐに扉は閉まる。

その音を聞いて、出発するらしい電車を見ると、応利はぎょっとした。

車内は満員だったのだ。スーツ姿、制服、作業服、老若男女様々な人が乗っており、つり革に掴まり、揺れる車体に合わせて揺れる。
その立っている乗客も、座っている乗客も、全員がこちらを凝視していた。じっと応利を見つめ、電車が動き出しても視線をこちらに固定し続ける。
生気のない落ちくぼんだ目で見つめられ、寒気のあまり応利は震える。とっさに目を逸らしていると、やがて電車は去っていった。


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