此処にましませ 堕ちた神−5
一瞬にして化け物たちを祓った勝己は、煙が晴れるとすぐに応利の肩を掴んだ。その形相は、先ほどまで見て来たヤツらよりよっぽど恐ろしかった。
「てめぇ、なんですぐ呼ばねぇんだアホ!!んな場所に来て時点で呼べや!!」
「だ、だって、自分でできることは、しようって…」
「おめぇにできることなんざあるか!!あってもとりあえず俺でも狐でも呼んでからにしろやクソが!!死にてぇんか!!!」
怒鳴る勝己の声は初めて聞いたもので、今まで口は悪くともこれほどの剣幕はなく、応利は竦む。この声量だけで周囲の化け物も逃げそうだ。
応利はじわじわと、襲われているときの恐怖が収まり切っていないこともあって、目に涙が溜まるのを感じた。でもそれはあまりにみっともない気がして、何とか押しとどめようとするのだが、勝己の眼光の鋭さに勝てなかった。
ぽろ、と再び頬を涙が伝う。
それを見た瞬間、勝己は睨んでいたのをやめて、途端にうろたえる。肩を掴む手も弱まった。
「っ、俺だって…俺だって、すぐ呼びたかったよ、どんだけ怖かったと思ってんだよ…ッ!!でも、怖がってるだけじゃ、お前らに守られてるだけじゃ、俺は、ダメだと思って…これから何度もこんな目に遭うかもしれないのに、ただ怖がってるだけなんて、」
次から次へと零れるものを拭いながら言葉にすると、勝己の手は更に弱まった。
「…んなことで、泣いて欲しかったわけじゃ、ねぇんだよ……」
そうして弱弱しく放たれた言葉の意味が分からず、手をどけて見上げようとすると、勝己は急に応利を抱き締めて来た。
勝己の晒された肩に鼻があたり、その筋肉質な体に抱き込まれる。守るようなそれは、また、寄り添うようでもあった。
ふと、応利はその懐かしさに気づく。
昔、まだ勝己が見えていた頃に、よくこうしてもらったような気がする。小さい頃だったから感触は少し違っても、この温もりも、言葉で表現されない優しさも、確かに昔感じたものだった。
「…お前が怖い思いしたんだっつーことに、最初は気づくべきだったな。わりぃ」
「勝己って謝るんだ」
「あ?」
「はは、冗談……あのさ、なんで俺が勝己だけ呼んだと思う?」
勝己の優しい温かさに涙は引っ込み、応利は少し余裕を取り戻した。
そして、勝己だけを咄嗟に呼んだ理由を勝己に考えさせてみた。無言が続くので、恐らく言外に知るか、と示している。
「…昔からさ、俺の側で、俺に寄り添ってくれてたの、勝己だったじゃん。それで、なんていうか、きっと、無意識に守ってくれる相手って認識してるんだと思う。だから、咄嗟に勝己のこと呼んだんだ。助けて欲しくて」
「……、狐野郎は」
「焦凍は一緒に戦う相手かな?攻撃しようと思ったら焦凍が浮かぶかも」
「別に俺だけで十分だろが」
「三人寄れば文殊の知恵って言うじゃん」
勝己の抱き締める力が強まる。その力強さは、応利を安心させるのに十分すぎるほどだった。応利もそのむき出しの背中に手を回す。縋るようなそれは、応利のプライドとしてはあまり好ましくないはずだったが、他ならぬ勝己だからそうできるのだろう。
今までずっと、見えていなかったときだって、側にいてくれたのだから。
「…たとえ俺のことが見えなくても、俺が側にいなくても。お前の言葉は俺に伝わる。だから安心しろ」
「…うん……うん、ありがとう」
ずっと1人だと思っていた。それは勘違いで、今までも、そしてこれからも、側にいてくれる存在があるのだということは、応利が地に足をつけて立つことを支えてくれるようだった。