PAR AVION−3


応利はブリーフィングスペースから、今度はCAのブリーフィングスペースに移動した。
そこには両端が丸くなった長机が並んでいる。これは機内の形を模したもので、CAのブリーフィングの際には自分が担当する位置に沿って座る。
応利はチーフであるため、ファーストクラスの一番前に座ることになっている。今回は全員女性だが、ここでも見知った顔がいた。


「あぁ…今日は麗日もいんのか」

「そうだよ!よろしくね応利君!」


同期のCAである麗日お茶子だ。麗日は今回ビジネスクラスの担当である。
笑顔がまぶしい麗日に「おう」とだけ返すと、応利はブリーフィングを開始する。ここではまず、先ほどの内容を共有してから、フライトの流れに沿って行動を確認する。
航路を説明するのはすぐ終わるので、次に乗客の特筆すべき事項を伝える。


「本日はエコノミーにハラルフード希望のお客様が3名、ベジタリアン希望のお客様が8名いらっしゃる。あとはビジネスに車いすの方がいらっしゃって、あとは5歳以下のお子様が4名。他は特になし」

「はい」


女性たちの揃った返答。CAはタブレットに色々と書き込みながらしっかりと聞いている。
あとはそこから、フライトスケジュールに沿ってアライビング・カードの配布、CAの交替や軽食運搬、ゴミの回収などの流れを確認していく。
東京〜バンコク便のエコノミーであれば、水とお菓子のセットや昼食としての軽食、そしてサンドウィッチといったようにサービスを出すことになっている。もちろん時間帯によって異なる。
深夜に東京を出る便だと早朝に着くのだが、朝の4時頃に朝食を出すことになる。熟睡の乗客も多く、こんなタイミングで、という声も聞かれるが、ランディング直前まで熟睡していると手間がかかるし、入国審査だってある。起きて置いて損はない。

一通りすべての確認が終わると、今回は天候的にも乗客的にも特に問題がないため、予定より10分ほど早く終わる。
リラックスモードになったCAは、途端に応利にぐいっと顔を近づけた。


「あの、今回は爆豪さんと轟さんですよね!?実際どうなんですか…あのウワサ」


麗日と同じビジネスの担当CAがワクワクとして聞くと、麗日は苦笑して放っておく。他のCAも興味津々といった感じで、応利はため息をひとつついた。


「その噂とやらは毎回聞く度にちげぇんだけど」

「私たちの間では、応利さん、あの2人とこの前ターミナルのレストランで食事してたって…結局、どっちと付き合ってるのかな、なんて話してるんです」

「あぁ…たまたま、俺と轟がフランクフルトから帰って来たときに、爆豪もハノイから帰ってきてたから、どうせならっていうんで飯行っただけ。そのあと整備の緑谷と瀬呂、貨物の尾白、パイロットの切島と上鳴と飯田も来たな」

「なんだ、ただの同期会じゃないですか〜」

「ただの、っていう言葉がつかないような会は開いたことねぇからな」


期待されても困る。

そしてこれこそが、応利を社内でやたら有名にさせる原因だった。
美形で才能あふれるエースパイロットである爆豪と轟は、なぜか応利にご執心なのだ。公然とアプローチしてくるものだから、すっかり「あの2人に迫られてるあのASか」と認識されてしまった。


「じゃあどっちとも関係はないんですか?」

「あってたまるか…はぁ、あいつらずっとトリプルの貨物専用機やりゃあいいのに」


パイロットは、どんな飛行機にも乗れるわけではない。機体によって資格のようなものがあり、他の型の機体に乗ることはできないのだ。
爆豪と轟はボーイング777を担当していて、この型は貨物専用機としても使われている。
この機体の型番は、ボーイングであればBと真ん中の数字をとってB5、B6、B8などと呼ばれる。B777に関してはトリプルセブン、トリプルなどと呼ばれている。
旅客か貨物専用かは同じ型であれば問われないので、あの2人がずっと貨物専用機に乗ってくれていれば旅客要員である応利は同じフライトにならず済むのだ。


「えー、でも爆豪さんのあの超絶ランディング癖になりません?」

「………それは否めない」


飛行機が好きでなければこんな仕事はしないし、その点で考えれば、2人のテクニックは一流だ。特に爆豪の技術は熟練パイロットをして才能マンと言わしめるほどのものである。あのスマートなランディングは見事としか言いようがなかった。


「裏では素直だなァ?」

「っ!?」


突然、背後から聞こえた低い声に振り向くと、爆豪がにやにやとしながら立っていた。手には貨物からのドキュメントがあるので、確認した内容を伝達しに来たのだろう。


「危険物は次の便に乗せられることになったから、この便は特別なモンはねぇ。しいて言えばお前が乗ってるっつーことだな」

「やかましいわ」


CAたちの押し殺したような声にならない声の悲鳴が聞こえる。爆豪にしてはかなり直接的に応利のことを「特別だ」と言っている。恐らく、応利が爆豪のランディングを褒めたことに気を良くしたのだろう。
勘弁してくれ、と思いながら、応利は爆豪に肘打ちしておいた。


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