PAR AVION−6
すべての手動切り替え機能を失い、自動操縦が勝手に減圧と右旋回を行い、通信すら閉ざされた状況。人為的なものだとすれば、目的はなんなのか。ハイジャックであれば、そろそろ犯人たちから何かしら声明があってもいいだろう。
「現在の航路は?」
「元来た道を引き返してるな」
色々と試す爆豪の横で、轟が答えてくれた。淡々とした感じは変わらない。爆豪だって、いつもの態度ではある。
「…ここはASの俺が犯人捜しに出るべきだと思うんだけど?爆豪機長」
「勝算はあるんか圧気保安官」
「俺の本分ですから」
応利はベルトを外して立ち上がる。機体はすでに旋回をやめて東京への航路を逆走している。一応安定はしているので、歩いても平気だろう。
「目的が分からないと最終手段に出られないだろ、機長」
「……チッ、あのクソナード、保安官相手に何教えてんだ」
「とりあえず機内の様子確認のために動く。マスクをつけてる以上、お客様もそうそう話しかけてこれないし」
「じゃあまだマスクは外させない方がいいな。すでに…7分経過してる」
轟は時計を見て経過時間を正確に教えてくれた。この冷静さは本当にさすがだ。応利は頷くと、開きっぱなしのコクピットから外に出る。
(怪しいのは、電子機器を持ってるヤツ…今も操作してるとは考えづらいけど…)
あまり有力な検討はつかないが、ろくな凶器を持ち込めない環境である以上、必要以上に相手の出方を恐れることもない。
応利はファーストクラスから順に、客室のすべての席を見渡していく。CAたちも席についてマスクをつけており、状況について聞きたそうにしていたが、すぐにできる状況では本来ないので見るだけだった。
本当はもう大丈夫だが、一切指示は出ていない。
ビジネスクラスに入り麗日と目が合う。こちらもアイコンタクトだけにし、乗客をくまなく観察した。
そしてエコノミーの最後列。
かなり時間をかけてここまで来たが、そこに、パソコンを前の座席のモニターにつないだ男がいた。にやにやと、こんな状況で笑っているのである。見るからに怪しい。
応利はその男に近づいて声をかける。
「航空保安官です。そのパソコンで今、何をされているんですか?」
そう尋ねると、男はこちらがある程度分かっていると気付いたのだろう、更に笑みを深めた。
そして突然、ゲラゲラと笑い始めたのだ。
「あーひゃっひゃっひゃっ!!!」
「っ、お客様、」
周囲の人々も奇異を見る目でこちらを見てくる。マスク越しに、恐怖を瞳に浮かべていた。
「やーっと気づいたかぁ…思ってたより早いなぁ…なんであんた、マスクないのか不思議だけど…ヒヒッ、あーー…楽しい……」
「あんたがやったんだな」
核心をもって言えば、男はあっさりと頷いた。
「そうだよ!!俺が!!独自のウイルスをシステムに忍び込ませた!!自動操縦システムを乗っ取って、事前にプログラミングした通りの航路になるようにな!!すっげーだろ!!!運が悪かったなてめーら!!!」
「…目的はなんだ」
ざわつく客室。その中でも、血走った男の声はしっかりと通った。
「テロだよ!当たり前だろ!?分かるかぁ?プログラミングした目的地!東京都新宿区新宿3−38−1だよぉ…新宿駅さ!!」
墜落させる気だと理解するには十分だった。乗客は悲鳴を上げ、パニックに陥る。どうしよう、やだ、誰かなんて声が聞こえる。
「外部からの反応は一切無効!もうお前らにはどうしようもできねぇよ!!無個性の俺だからこそできたんだ、個性もったやつのことしか考えてねぇからなぁ!!」
「…残念だけど」
しかし応利は落ち着き払っていた。むしろ、目的の墜落まで2時間あることにホッとしたほどだ。応利はあえて、声を張り上げた。
「この飛行機は墜落しねえよ!」
「は…?」
静まり返った客室に、応利の声が響く。
「なんてったって、この便の機長たちは凄腕だ…せめて減圧さえ成功してりゃ可能性はあったが、俺が気圧を操れる個性だから意味なかったな。あとは天才機長たちが最寄りの空港に緊急着陸させて終わり」
応利は男に手錠をかけて勢いよく立たせた。貧弱な男は応利の前になすすべもない。
「運が悪かったな?せいぜい、刑務所生活の想像でもしてろ…改正航空法に基づき、着陸まで拘束する」
応利はすぐに男を近くの拘置スペースの扉の中に押し込んだ。無個性とは言っていたが、一応死刑囚と同じ拘束具でがんじがらめにする。猿轡で舌も噛めない。
扉を容赦なく締める寸前、男は情けない顔をしていた。恐る恐る見つめる人々に、応利はニコリとほほ笑んだ。
「何も問題ありません。私たちが、皆さんを必ず安全な場所へお連れします」