おお天使様−2
そんなA組を恐怖のどん底に突き落とした聖夜だったが、聖夜が本当はどんな人間かということは、しだいに全校の生徒たちが理解するようになっていった。
特にA組は、その後始まった体育祭期間で聖夜の世話になった者が多くおり、打ち解けるのが速かった。
最初は、それぞれが自主トレーニングをしに雄英に来て、そこで聖夜に出くわして恐怖で死にそうになったが、聖夜は生徒たちを見てアドバイスをくれた。教師ではないので、助言や手伝いができるのだという。
本当はそんな許可が特別に下りたわけではないだろうことはすぐわかり、こっそりとやってくれていると分かった。
硬化が解けたのに木の幹を殴って出血した切島は、通りかかった聖夜を見て「ヒッ」と言ってしまったが、聖夜が個性で怪我を治すと驚きで息を飲んだ。
簡単な怪我や病気なら治せるのだという。そして、硬化がムダに広い範囲にわたっているからもっと範囲を限定するよう助言してくれた。
「天使だ…」と切島は去っていく背中を見て呟いた。
上鳴は放電のトレーニングをしていたが、偶然居合わせた聖夜にも当たってしまい「死んだ」と内心で絶望した。しかし聖夜は特に効いた様子もなく、むしろ空からいかずちを落とした。神の正義の鉄槌だという。
地面に穿たれた穴を示すと、聖夜は上鳴の方を見て言った。
「これくらい強くてもこの程度だ。もっと遠慮なく個性を使っていい。俺に当たったのも大したことはない」
それが助言だったと気付いた上鳴は、「天使だわ」と羽ばたく様子を見て思わず虚空に言った。
爆豪は、爆発を重ねて、連続使用に慣れようとしていた。そこへ後ろから声がかけられたので振り返ると、先日教室でガンを飛ばしていたヒーローで、何とか爆豪が目を合わせることができた男だった。
「んだよ」
「爆発の位置がそれだと甘い」
「あ?」
相変わらずの眼光に爆豪ですら生きた心地がしないような気がするため、逆に態度が悪くなる。虚勢だ。しかし聖夜は気にした様子もなく、指先に光を纏うと空中に図を描き始めた。
指が空中なぞると、光の線が描かれていく。それはキラキラと煌めいて、星でも散っているような感じだった。
ムダにかわいらしい線で描かれた図は、そのファンシーな線のわりに物理学のガチな図だった。
「いいか、爆風というのは入射波と地上反射波の二種類があり、それが合わさるところを融合波面という。爆風過圧は爆薬量の3乗根に比例して大きくなり、爆源からの距離に反比例して小さくなる」
「………?」
突然の話に爆豪が混乱していると、それを察した聖夜は少しかみ砕いた言葉になった。
「つまり、爆破を起こす場所を、対象の距離と爆発の威力に応じて決める必要があるんだ。特に、融合波面がちょうど対象に当たるように。だから、地面との距離を意識して練習するといい」
「この跳ね返る波がマックスで融合波面として敵にぶつかる高さと威力で爆破しろっつことか」
「そういうことだ。さすが、優秀だと聞いているばっくんだな。理解力が高い」
爆豪は褒められたので聖夜への認識を改めようとしたが、聞き捨てならない表現があったような気がして固まった。
「…おい、今俺のことなんつった」
「?ばっくんだが」
「はぁ!?なんじゃそのあだ名は!キメェな!」
そんな呼び方をされるような言われはないと爆豪はキレるが、その瞬間、聖夜は目に見えてシュンとした。「嫌だったか」と肩を落としている。そこで思い出されるのは相澤の言葉。「繊細な人」と言っていた。
そういうことかあああ!と爆豪は内心で失言に気づいたが、それよりも、悲壮感に打ちひしがれている聖夜をどうにかせねばならない。
「嫌ではねぇよ…強面天使が」
「!あだ名で呼んでくれるのか!」
爆豪にとってはあだ名というか相手をバカにして呼ばなければ気が済まないというだけの話だが、聖夜はパッと顔を明るくする。相変わらず目つきは鋭いが、なんというか、纏う空気で分かるのだ。
調子が狂う、と爆豪は思いながら、一応プロでもある聖夜に軽く礼を言ったのだった。