SS

1000文字未満のSS夢
ダイゴチリ

2023/07/30
【とける氷菓】

Character: ダイゴ
 溶けたアイスキャンデーが指を濡らしそのまま肘まで伝ってゆく。ナマエが慌ててぱくりと口に含むけれど全ては収まりきらず、無情にもぼたぼたとアイスの雫が落ちてゆく。ナマエは喉の奥で悲鳴を上げ、口からアイスを抜くと舌を出して溶けるアイスキャンデーをぺろぺろと舐める。それでもまだ垂れ続けるアイスに、ナマエは眉根を寄せて不機嫌な顔を作りながらちゅうっと吸い付いた。
「わたしもシャーベットにすれば良かった」
 手に付いたべたべたするアイスの汁をぺろりと舐めてナマエがため息を吐く。ボクが手に持つレモンのシャーベットをじっと見つめるから「一口食べるかい?」と訊ねたらぱあっと笑顔が咲いた。けれどすぐにはっとして首を振る。
「わたしスプーン持ってないし、それにほら、手が汚れてるから」
 言葉では遠慮をするナマエだったが、至極残念そうに眉を下げ羨ましそうに見つめる瞳はシャーベットが食べたくてたまらないと言っている。この子はいつからボクに遠慮するようになったんだろう、胸の奥にもやもやが広がって何だか急につまらなくなる。小さなスプーンを掴んで半分溶けたシャーベットを山盛りに掬う。
「ナマエ、口開けて」
 スプーンの行く先を追っていた可愛らしい瞳が大きく見開く。それはボクへ向けられまたスプーンのシャーベットを見つめ、再びボクに戻って突然そっぽを向いた。
「いっ、いいよ…、わたし、これ食べなきゃ」
言ってるそばからナマエのアイスキャンデーがまた大きな雫を砂浜へ落とす。
「ナマエ、」
「本当に、大丈夫だか――」
「口を開けて」
 ボク達には遠慮なんて不要の関係のはずだ。ボクは語気を強めてもう一度ナマエに声を掛け、スプーンを差し出す。ナマエが赤くなった顔で助けを乞うようにボクを見たけれど返事の代わりにスプーンをぐいと押しやった。
 ナマエが戸惑いながらこわごわと口を開く。ボクがその中へスプーンを入れると、ナマエは赤い顔でシャーベットを飲み込んだ。入道雲の白が眩しい夏の海辺での出来事だった。

2023/07/21
【宵】

Character: ダイゴ
まどろむ意識が唐突に覚醒する。ぱちりと目を開いて身体を起こす。ポケモン達に食事をやらないと、と部屋を見渡してダイゴはふっと息を吐いた。ここは我が家ではなく、ポケモン達もポケモンセンターに預けている。何も心配する事はなかった。ダイゴは起こした身体を巻き戻すようにベッドへと沈めて目を閉じた。
こんなにだらけたのはいつぶりだろう。ポケモンの世話もせず、朝から――厳密には昨日の夜から大半をベッドの上で過ごしている。ふと窓を見やる。窓の外に広がる空は夕日の名残を僅かに残して夜の闇に染まっていた。
その原因とも言える恋人のナマエは、ダイゴの隣で気持ちよさそうに眠っている。ダイゴはうっすらと笑みを浮かべるその頬を指でつつく。今は大人しく閉じているその口が数時間は……と思い出して視線を下へと落とす。もうこれが本当に限界だと感じていた筈だったが、自分の身体は肉欲に対して自覚している以上に貪欲だった。これに付き合わせるナマエに申し訳なさを覚えつつ、しかし今日の提案をしてきた張本人には責任を取る義務があると心が揺れた。結局、ダイゴは今日くらいは甘えても許してくれるだろうと、ナマエの身体を揺すった。

「えぇ……ダイゴ、元気すぎるよ……」

ふあぁ…、と大きなあくびをしてナマエが逃げるように背を向ける。ダイゴが伸ばした手も何の情緒もなく払われた。
 たまには全部放り出してのんびりするのも良い気分転換気なるよ――そう言ってダイゴをカイナシティに連れて来たのはナマエだった。ナマエは自分とダイゴの手持ちのポケモンを全てポケモンセンターへ預け、カイナの砂浜がよく見えるホテルへとダイゴを案内した。そしてダイゴの両手を取ると『ダイゴは何がしたい?』と愛らしく首を傾げた。

「でもきみが言ったんだよ、ボクのしたい事をしよう、って」

ダイゴは枕に顔を埋めるナマエの首筋に指を滑らせる。ナマエの肩がびくりと揺れ、「もう、」怒った瞳がダイゴを振り返った。

「こんな予定じゃなかったのに」

大きなため息を吐いたナマエがダイゴへ両手を伸ばす。ダイゴはそれを受け止めると薄桃の唇にキスを落とした。ちゅ、と可愛らしいリップ音がして、もう一度唇が重なり合う。さらにもう一度、まだ足りない、もっと深く、ダイゴはナマエへの口付けをどんどん深くしてゆく。

「じゃあきみは何がしたかったんだい?」

にこりとダイゴが訊ねる。ナマエは顔をしかめてダイゴを睨むとダイゴの唇に噛み付いた。

2023/07/14
【熱帯夜に天ノ弱】

Character: チリ
「なぁ、もう寝た?」
 電気を消しておやすみとベッドに入って数分、静まり返る寝室にチリの声が響く。わたしは仰向けの体勢のまま目も開けずに、眠気を隠さない声で「どうしたの」と返事をした。チリはごそごそと寝返りを打ってこちらに体を向け、「別に何もないけど」ちょっと不満気な声を上げた。
「恋人に対して冷たない?」
 チリの手が伸びてきてわたしの腰を抱く。夏用の涼しい寝具のおかげで、触れた肌がやけに熱く感じる。今はまだ平気でも、このまま抱き着かれたら暑さに参ってしまいそうだ。わたしはチリの体を押しのけ「暑いってば」くるりと背中を向けた。
「せっかく彼女が泊まりに来てんのやで、もうちょっと相手したってや」
 背中にじわりと熱が広がる。チリがわたしの身体にぴったりと体をくっつけていた。あつい。堪らずチリの手を引き剥がす。でもすぐにまた抱き着かれる。ついさっき長い髪のドライヤーで暑い暑いと言っていたのはチリの方なのに。
 もう一度腕を解いてベッドの端へ逃げる。チリが泊まりに来てくれているけど、暑くてそういう気分じゃない。その筈、なんだけど。
「つれへんなぁ」
 どうせ懲りずにくっつくんだろうと思っていたら、チリはため息を吐いただけで何もしてこなかった。何だか分からないけど気が済んだらしい。ほっと息を吐いて今度こそ寝ようと目を閉じる。
 でも眠れない。さっきまであった眠気はどこかに消えてしまってる。そっと、首だけを動かす。チリはわたしに背中を向けていた。
「どうしたん?」
 冷ややかな声で尋ねられる。わたしは背中から回した腕でチリをぎゅっと抱き締めて「クーラーが、寒くて」もごもごと下手くそな言い訳を呟いた。
「それはあかんなぁ」
 チリが振り返る。暗い寝室だったけれど、チリのにんまり笑う顔は不思議とはっきりと見えた。
「チリちゃんがあっためたげる」
 そう言ってチリが目を閉じる。わたしもまぶたを閉じたら唇が触れ合って、湿度の高い熱がわたし達を包んだ。

2023/04/23
【もっと深くまで】

Character: ダイゴ
 彼女を抱きしめて可愛らしいキスをする。触れるだけのキスを繰り返し、息の上がった彼女が薄く開けた唇にそっと舌を滑り込ませる。びくり、彼女の体が跳ねる。
 驚いて逃げる体から一度離れ、目を見て彼女の意思を確認する。大丈夫、恥ずかしがっているけど嫌がってはいない。
 もう一度唇を重ねる。舌を伸ばし彼女の舌に絡み付く。喉の奥から耐えきれない甘い嬌声が響いてくる。彼女の腕がボクの背中を強く掴む。
 まだ始まったばかりなのに彼女はこんな事で感じて満足してしまう。本当はもっとぐちゃぐちゃにして息が苦しくなるほど深く絡み合いたいのに、そんな事したらきっと彼女は怖がってしまうだろう。
 唇を離す。息の上がった彼女がとろりとした顔で微笑む。幸せそうな顔で、満ち足りた顔がボクを煽ってるとも知らずにぎゅっと抱き着いて「好き」なんて可愛いことを言う。
「ボクも好きだよ」
 その深度は全然違うけれど。もう一度キスをして、今日もまた大好きな彼女と可愛らしい愛を育む。

2023/02/28
【理由は知りたくない】

Character: ダイゴ

 あのね、と話を切り出した彼女は頬を紅潮させひそひそと囁いた。

「彼氏が出来たの」
 今はスクールのバトル実技演習の最中で、ダイゴはクラスメイトのバトルを真剣に見ていた。隣で同じように見ていたナマエが時々チラチラとこちらを見ていたのには気付いていたが、どうせ目の前のバトルの展開に何か言いたいだけだと思っていた。目の前の二人より彼女の方がうんと上手だから。
 ところがナマエはダイゴと目が合った瞬間に瞳をキラキラさせ、ダイゴには関係のないどうでもいい事を重大発表のように耳打ちした。それが突然の「彼氏が出来たの」だ。
 予想外の言葉にダイゴは隣の彼女に顔を向ける。あまり日焼けのしていない頬は今やメタングの瞳のように真っ赤になっている。そんな彼女を見たのは初めてだった。
「今授業中だよ」
 ダイゴは目を逸らしてため息を吐く。視界に入ったバトルは膠着状態で勝敗が決するのにまだ時間が掛かりそうだった。
 ナマエがごめん、と小さな声で謝るのが聞こえる。初めて聞くか細い声に、少し厳しく言い過ぎたと視線を戻す。
「でも今日、朝から全然ダイゴくんと話すチャンスなかったから……親友のダイゴくんには一番最初に伝えたかったの」
 親友という言葉を聞いてダイゴの瞳が大きくなる。
 ダイゴとナマエは幼なじみで小さな頃から遊んでいた。どちらもスクールに入って親しい同性の友達を作っていたが、それでも変わらず仲良くしていた。最初の頃は揶揄される事もあったが、二人の間に特別な感情がない事はすぐに知れ渡り、だからこそ今こうやって二人並んでいても誰も何も言わない。ダイゴ自身、彼女を幼なじみとは思っていても、それ以上の存在としては認識してなかった。筈だった。
「ダイゴくん?」
 一瞬どこかへ飛んでいた意識がナマエの声で戻ってくる。ダイゴはハッとして「おめでとう、良かったね」と返す。
 いつもなら彼女が笑っていると自分まで嬉しくなるのに、今のダイゴは胸が苦しく何故か泣いてしまいそうだった。

2023/02/25
【それでも愛して】

Character: チリ

 時々、チリさんがひどく苦しい顔をすることがある。それはわたしの家でゆっくり寛いでいる時だったり、仕事の帰り道に隣を歩いている時だったり、或いは朝目が覚めて彼女がわたしに付けたキスマークを見つめる時だったりと、いつも何か幸せを感じた直後に顔が翳った。
「ごめんな」
 決まってチリさんは謝るけれど、チリさんは謝るような事を何一つしていない。ソファに二人で腰掛けて話題の映画を見るのは楽しく、仕事帰りにコンビニでアイスを買うのだって嫌だと思った事もなく、体に散りばめられた赤い痕はわたしを興奮させることはあっても謝罪を求めようなんて一度も思ったことはない。それでもチリさんは見てるわたしまで胸が苦しくなるような辛い顔をして、謝罪の言葉を呟く。
「人に言えへん付き合いさせてごめんな」
 繰り返すけれど、チリさんは謝るような事を何一つしていない。今わたしがチリさんと付き合っているのはわたし自身の意志、チリさんに強制された関係ではない。たしかに恋人がチリさんだと誰かに打ち明けたら好奇の目が向くかもしれない。でもそれ以上にこんなに素敵なチリさんと付き合っている事を羨ましがられるに決まってる。
「ほんま自分はええ子やな。ますます手放せへんわ」
 ぎゅうっと抱きしめられると、ぴったりと触れ合った身体に自分のとは異なる鼓動が伝わってくる。ほんの少しテンポを速めた鼓動がどくんどくんとわたしの胸に響く。わたしの心臓もチリさんへの想いを乗せて強く拍動して、背中へ回す腕に一層力を込めた。

2023/02/17
【デイジーのワルツ】

Character: ダイゴ

 あっ、と声が出た時には世界が90度回転していた。ふかふかのソファに押し倒され、起き上がるのを遮るようにダイゴさんが覆いかぶさっている。その体が部屋の照明を隠し、ダイゴさんの形の影がわたしに落ちる。影になったダイゴさんの顔は笑っているようだったけれど、何かが違うようで少し恐ろしく見えた。
「ナマエちゃんって本当に隙だらけだね」
 ダイゴさんの右手がわたしの頬を包む。じゅっ、と音がしそうな程熱い手のひらが頬を焼いてゆく。そんなにぎゅっと手を押し付けたらファンデーションが付いちゃう、混乱する頭がどうでもいい事を考える。今考えることはそんな事じゃないはずなのに、目の前のダイゴさんと目を合わせていると何も出来ない。
 ダイゴさんが悪戯したココドラを目の当たりにした時のように困った顔で笑う。状況が状況でなければ釣られてわたしも笑っていただろう。でも頬は石のように固くて動かない。どうしていいか分からず、ぎこちなく視線を逸らしてダイゴさんの次の行動を緊張して待った。
「抵抗しないなら、このまま手出しちゃうよ」
 ダイゴさんの声は軽かった。コーヒーに入れる角砂糖の個数を聞くように、よくある会話の一つのように、からりとした声でわたしに訊ねた。現状とのちぐはぐさに、今すぐにでも冗談だと言われたくて視線を戻す。顔に広がる薄闇の中で綺麗な青い瞳が不気味に光っていた。
「うーん、その顔はちょっと狡いかな」
 頬に添えられていた手が離れ、ダイゴさんが身体を起こして天井へ重たいため息を吐いた。視界が明るくなって、空気が元に戻った気がした。わたしもほっと胸を撫で下ろす。と、視線を下げたダイゴさんと目が合う。そこに居たのはいつものダイゴさん――笑顔が可愛くて格好良くて、わたしの憧れる大人の人だった。
「旅に出るつもりなら、どんな時でも気を抜いちゃいけないよ。女の子は特に危ないんだから」
 差し出された手を引っ張って起き上がる。ああなんだ、そういう意図だったんだ。突然の行動の理由が分かってすっかり不安がなくなる。
 なのにどうしてだろう、胸がちくりと痛い。どうしちゃったんだろ、わたし。にわかに速くなる鼓動に、押し倒された時以上に困惑して耳が赤くなった。

2023/02/11
【ただの好機】

Character: ダイゴ

「まだ一緒にいたい……、です」
 ナマエがボクのスーツの裾を掴む。俯いて顔は見えないけれど、消え入りそうな声は恥ずかしさに満ちている。勇気を出して呼び止めたのが手に取るように分かった。
 月明かりが夜道を照らす中、ボクはいつものデートでするように彼女を家まで送り届けていた。歩調はナマエに合わせてゆっくりに、周囲に目を光らせ話題になるものを見つけたら直ぐに足を止めて、少しでも一緒に居られるようにあれこれと手を尽くす。
 それでも目的地には着実に近付いて、あっという間に家の前に着いてしまった。まだまだ寒いこの季節、家の前で立ち話をするのも限度がある。
 だったら家に……と下心が顔を覗かせるけれどそれも駄目だ。付き合ってしばらく経つけど未だ行為には及べていない。そんなボクが家に上がって大人しくお茶だけして帰るなんて、きっと出来ない。だからナマエがその気を見せてくれるまで絶対に家には上がれない。そう、思っていた。

「まだ一緒にいたい……、です。家、入りませんか」

 今までもあと5分だけなどと呼び止められることはあった。でも今彼女は何と言った? 見栄を張ってボクが言えなかった一言を言わなかったか? ボク達は子供じゃない。たとえそれが恋人だったとて、夜遅くに男を家に招いて起こり得る行為が想像できない年じゃない。
 つまりこれはそういう誘いだ。にわかに速くなる鼓動を悟られないよう、緊張で声が上擦らないよう慎重に口を開く。
「いいのかい?」
 ああ、ナマエが俯いてくれていて本当に良かった。ボクはナマエが小さくけれど確かに頷くのをしっかりと確認するとその肩を抱いて彼女が招いてくれた家へと足を踏み入れた。

2023/02/10
【とけるまで】

Character: チリ

 今日は待ちに待ったバレンタイン。けれど同時に明日も仕事のあるいつもの平日で。だから渡したチョコレートは簡単に中を確認したらさっさと冷蔵庫へ仕舞われて、その後は昨日と同じく各々する事をして各自のタイミングでベッドに入った。
 もちろん明日の事を考えたらそれは間違ってない。でも同棲の新鮮さが失われややマンネリとした今、チョコを口実に少しくらいイチャイチャしてくれても良かったのに。チリはむしろ普段以上に素っ気なかった。
 同じベッドの中、チリに背中を向けて体を丸める。腹が立って寂しくて苛々して胸が痛い。もうチリなんて知らないんだから。抱き枕を強く抱き締めてぎゅっと目を瞑る。
 と、不意にチリに「ナマエ」と名前を呼ばれた。でもとっさに知らんぷりをする。早く寝ろと言ったのはチリなのだ、わたしは言われた通りにさっさと寝てやる。
「寝たフリせんとこっち向きいや」
 ぐらぐらと肩を揺さぶられる。これじゃあ寝たくても眠れない。仕方なくチリの方に体を向けて、今さらわたしに構おうとする恋人に不機嫌な顔を見せた。
「チリちゃんからチョコ渡してないやろ?」
 何を言うかと思ったら。今ここでチョコを渡されたって困るだけ――
「ふ、んぅっ」
 目の前にチリの顔があって、ふわりと甘いチョコの香りが漂う。どこからだろう、意識が香りに向いた瞬間、唇が塞がれた。香りが濃くなる。
 チリが音の少ない寝室にリップ音を響かせて唇が離れた。チョコの香りはまだ漂っている。
「どう?」
 にやりと笑うチリの唇はつやつやと濡れていた。それに触れられた部分を撫でると、べたりとした何かが指に付く。キラキラしたラメの入ったグロスだ。鼻を近付けるとチョコレートの香りがした。チリに視線を戻す。
「食べ足りへんならおかわりしてもええんやで」
 こんなの狡い。わたしは血色の良くなった唇に噛み付くようにキスをして、チョコの甘い香りを肺いっぱいに吸い込んだ。

2023/02/08
【バレバレ】

Character: チリ

付き合ってんのがバレんのが嫌なんは分かってる。でもだからっておっさん二人と同じチョコを渡すんはどうやねん。それやったら女の子の括りでポピーと同じのが良かったわ。
にしてもこんな義理チョコにも気を使ってナマエもえらい子や。量も手頃やし甘すぎずちょうど良い塩梅でセンスが光っとるやん。さすがナマエ、自慢の彼女やで。
「チリちゃん、それはベリベリしないんですのね」
「へっ?」
隣に座ってたポピーが指すんは包装紙。テープを綺麗に剥がして丁寧に折り畳んである。
「このまえの、おじちゃんのおかしはベリベリしてましたの」
「せ、せやったかなあ」
「そうですの!ポピー、あとでおえかきしたかったのにチリちゃんがベリベリしたからできなかったですもん」
「あっ、あれなぁ!だから今回は綺麗に剥がしたんやで」
完全に無意識やったわ。カモフラージュでも何でもナマエからの贈り物やと思ったら無意識にめっちゃ丁重に扱ってたわ。
「ポピーもじょうずにはがしましたの!」
「ホンマやなあ。じゃあ今日はそれ使ってお絵描きしたらええんちゃうかな」
さり気なさを装って折り畳んだ包装紙に手を置いて守る。悪いなポピー、これはチリちゃんのやねん。
「そうしますの。チリちゃんもいっしょにおえかきしてください」
「いやぁ〜悪いなポピー、チリちゃん忙しくて今から仕事やねん」
控え室には他にもまだ休憩してる奴がおるからポピーはそいつらに任せたらいい。とっとと控え室出てゆっくりナマエのチョコレートを堪能できる場所に移動したれ。


「べつにポピー、チリちゃんのチョコほしいなんていわないのに。チリちゃんたらおこさまなんだから!」
prev / next
InFinity