ドアに視線を向けると同時に、現れた人物の顔を見てラディは俄かに驚いた。
相手の表情を見る限り、何かを“交渉”しに来た訳ではないのはわかった。
だが、なぜこの男が来たのかは理解できない。
神羅カンパニー現トップでありお互いの顔も知っているプレジデント神羅ではなく
「・・ルーファウス神羅」
静かに靴の音が店内に響き、ラディへと向き合った。
「光栄だな。」
座っていたラディも立ち上がり、ルーファウスへと向き合う。
女性の平均よりも大きい身長であるためほぼ目線は一緒だった。
「ミカルは―」
その名前を口に出された時、ラディは過去にユアンへといった言葉を思い出した。
――『もしそのことで強請られたら』――
「ここで働いているな?」
「あの子の叔母が残した店だからね。オーナーは共同経営者でもある私だけど、時々手伝ってもらってるよ」
「貴女は彼女の引き取り手か?」
「住民のデータベースにはそういう記載でもされていた?」
全てを把握しているであろう事はルーファウスの表情を見たらわかることだった。
嘘をついたところでこの男には通用しないだろう。
「よく、7番街スラムに出入りをしているようだが・・」
「プレート上部でもスラムでも商品が必要であれば届けるさ。飲食店でも一般家庭でもね」
「7番街スラムには反神羅を掲げるグループのアジトがあると聞いている。年若いミカルが出入りするのは危険ではないのか?」
ラディはそのことについては必要以上に心配をしていなかった。
プレート上層部だろうとスラムだろうと、ミカルが行きたくて会いたい人がいるならそうさせてやりたいというのがユアンの考えだったからだ。
色んな人に出会って、色んなことを見聞きして体験してほしい…狭い世界だけで生きてほしくはない、そう常々言っていたことも。
「何が言いたい?」
「いや・・護衛対象として神羅で保護することも可能だ。彼女の年齢から考えると誰かに引き取られてもおかしくはないが、一人暮らしだ。」
「あの子の叔母がしっかりと色んなことを教えてきてるから心配は無用。あのくらいの年齢で1人暮らしをしてるのはミッドガルでは珍しくはない…それに、私もあの子にとっては家族同然。私以外にもそんな繋がりは沢山あるはずだよ。」
「正式な形ではないな」
「このミッドガルで形式ばった物が意味あるとでも?2度とコンタクトは取らない約束を結んでも結局はそれさえも意味をなさずこの状況だ。」
ラディは笑わせるなとでも言いたげに、皮肉を込めて静かにルーファウスへと言葉を投げつけた。
ルーファウスは確かに、と言って俯き加減に笑った。
護衛対象で神羅に保護―。
この言い回しを使うところ見ると、自分とユアンの過去の経歴のデータは処理されずに残ったままなのだろう。
「心配しなくても私はあの子を守れるし、あの子も自分の身は自分で守れるくらいは出来る」
「過去に神羅に貢献してくれていた御礼も兼ねてだったが」
「気持ちだけ受け取る。それにあの子は神羅には関係ない立ち位置だ…私たちとは違う。」
神羅には関係のない立ち位置ーー
この言葉でミカルが祝賀会でのピアノ演奏について話していないことが分かる。
今後も協力しろ、というわけでもなく
ルーファウスは一通り言い終えたのか入口へと向かった。
「あぁ、珍しい食材や調味料が揃えられているな。今度の祝賀会にて使用したいのでシェフに来させる。」
ラディへと一度振り返りルーファウスは車へと戻った。
待っていた護衛の黒いスーツの男は諜報員。チラリとこちらを一瞥するとすぐに車へと乗り込んだ。
ラディたちが去った何年か後に入ったのだろう、見たことがない顔だった。
ミカルを連れてミッドガルを出ようか――。
一度でも神羅の闇に関わった者は平穏を求めることは難しいのかもしれない。