「じゃあ、私たちはそろそろ行くわね」
「身体には気を付けるんだぞ。あと、イグニスに迷惑かけないように...」
「はぁい..」
使いの者が両親を迎えに来て車まで誘導し、乗り込んで王都城敷地を出ていくのを見送った。
ふぅ、と溜息を付き伸びをした後久しぶりに城内を歩いてみた。
ちょうど先日高校で進路調査の紙が配られたばかりだった。
まだ入学してから数か月と言えど、進学校でもあるので早い時期からの意識の確認といったものであろう。
自分の中では将来はどういう方向に進みたいか、一応は決めている。
考え事をしながら歩いていると、稽古場からの声が聞こえる場所までやってきた。
中庭の木々たちは美しく手入れをされていて、小鳥のさえずりと男女共にの掛け声が混じり合って聞こえてくる。
“王の剣”と呼ばれる特殊部隊と、警護隊、ルシス王家を守護する“王の盾”の合同の訓練なのか威勢の良い怒号も時折聞こえる。
そういえば今日は稽古の日だとノクトが言っていたことを思い出した。
カンっ―と乾いたような木の音が稽古場から聞こえる。
「お嬢さん、ここは一般人は立ち入り禁止のはずだが―、」
足音もせずに声が掛かり、シギルは一瞬ビクッと身を震わせ振り返った。
「シギル、か?」
髪を短く切り揃えた、彫りの深い顔立ちの大柄な―いかにも屈強そうな―男が驚いた顔をして立っていた。
「...グラディオ」
「おー!!シギルか!シギルじゃねぇか、ひっさしぶりだなぁ!」
思い出したと同時に目の前の男は自分へと数歩歩み寄ったかと思ったら、いとも簡単に身体を持ち上げた。
「ちょっ...と、グラディオ!」
「大きくなったなぁ!」
懐かしむように目を細め自分を見つめるグラディオは、代々王家を守護する“王の盾”一族のアミシティア家に生まれた。
昔から変わらない目鼻立ちがくっきりとしていて
更に加えて女性が好みそうな甘い顔立ちに成長した気がした。
「もう、降ろしてよ」
「ははっ!悪ぃ悪ぃ、つい懐かしくて昔みたいにしちまったな」
「一応レディになったと思うんですけどね〜」
そう言って膨れてみせるとぶはっと吹き出し、グラディオはシギルの頭を撫でた。
「これは失礼した。レディに気安く触れちゃダメだよな。ほら、もう一度良く見せてくれよ」
そう言われたのでくるりと回ってみせるとグラディオは満足そうに頷いた。
「イリスは、元気?今はもう...10歳かな」
グラディオには8歳年下の妹が居る。
シギルが会った時にはまだ生まれたばかりの赤ん坊だった。
「あぁ、元気だぜ。今度うちにも来いよ、イリスと遊んでやってくれ」
「うん」
稽古場から相変わらず木が重なり合う音と声が響き渡っている。
「今日はどうした?ノクトと約束か?」
「ううん、両親に会いに来たの。さっき見送った。」
「そうか、忙しいんだな」
「まぁ、ね。ノクトはまだ稽古続くよね?イグニスも?」
「そうだな、ノクトは後みっちり2時間...イグニスは今日は居ないぜ。ノクトの部屋の掃除するって言ってたな」
「そっか」
短く答え、グラディオを見やるとニヤつきながら此方を眺めている。
「ん..何?」
「いーや。ま、ノクトが帰る前に会いに行ったらいいだろ。」
「え...」
「お前は昔っからイグニスイグニス...昼寝の時は隣じゃないといやだって駄々こねてたよな」
「き、記憶にございません...」
グラディオは豪快に笑い飛ばし、稽古場のドアへと向かいがてらシギルの頭に軽く手を置きながら言った。
「まぁみっちり2時間、休憩も挟んでシャワーと着替えと...3時間ちょっとあるから十分独り占めできるだろ」
「その言い方なんかやだ...」
「ほら、さっさと行けよ。ノクトを送りついでに後で俺も行くわ」
じゃあな、と手を振りグラディオは稽古場へと入って行った。