Ignis sideー
いくつかの車を隔てた先にある通りから
誰かがこちらを見ているような気がして視線を向けるとプロンプトとシギルだった。
見間違いではなかったと思う。
目が合ったかと思ったが、それと同時シギルはすぐに向き直り急ぎ足で去って行き、プロンプトも追いかけていったのが見えた。
◆
『お忙しいのに、お時間を取らせてしまって…』
控えめにそう言った目の前の女性は、この何分かの会話の中で何度か耳に髪をかけた。
緊張しているのと、少なからず自分に好意を抱いてくれているのだというのも伝わってきた。
当たり障りない自己紹介や、日々の仕事のこと、学生時代のこと、側付きとしての自分の日々を話していると不意に彼女は口に手を当てて控えめに笑った。
『とても、可愛く思っていらっしゃるのが伝わります。』
無意識にノクトやシギルの話をしすぎていたようで、イグニスは小さくすみませんと言った後にコーヒーを一口飲んだ。
『謝らないでください』
少しの沈黙が流れる中
薄らと耳心地の良いピアノが聞こえてくる。
◆
『今日はありがとうございました』
女性は迎えの車に乗る間際、イグニスに言った。
『いえ、こちらこそ御足労をおかけして…』
言いかけて道の向こう側にこちらを見ている2人の若い男女が視界に入った。
いつも見慣れているからこそ、真っ先に気がついたのかもしれない。
驚いた顔をしたプロンプトとこちらを見てすぐに向き直ったシギル。
2人の元へ行きたかったが、声をかけられて意識が目の前に戻った。
『どうかされましたか?』
『あ、いえ…』
車のドアを開け、女性が乗るのを待つ。
『お忙しいと思いますが…お身体大切になさってくださいね』
『ありがとうございます』
それ以上は何も言わずにイグニスはドアを閉めた。
頭を下げ、車がホテルの敷地内から出ていくのを見送ってから自分の車へと向かった。