episode 6
伍式
「退屈だな」
一人、呟く。
墓守鬼を揶揄うのも、他の始祖とのトレーニングも……退屈になってきた。
「いかんいかん」
首を横に振って、思考を変える。
完璧超人始祖の一人として、何かできることがあるはず。
久しぶりに下界を覗くことにした。
が、何ら変わりがない。下等超人は下等超人らしく生きている、それだけだ。
超人墓場を彷徨うろけば、墓守鬼達は真面目に仕事をしている。
ふうむ、やはり退屈……。いやいや。
「どうしましたか、ペインマン様」
一人の鬼が話しかけてきた。
緑色の肌、そして一本角の鬼。
「テハハ、よせ。様付けなど。お前こそ、何故そのような格好をしている」
「モガモガ、やはり分かるか。こちらの方が何かと都合が良くてな」
アビスマンは鬼の姿を変えることなく、少し談笑をした。
すると、少し超人墓場がざわつき始める。
なんだ、と見れば、また一人完璧超人の仲間入りをした者がいるそうだ。
「ほう」
「次はどんな奴だ?」
久しぶりに下のものに指導をするのも悪くない、と、見れば、女の超人がミラージュマンと歩いていた。
「モガモガ、ミラージュマンめ、きちんと選別したのかあ?」
「女の超人とは……珍しい、いや、初めての事だ」
下界でも、超人墓場でも、女の超人は何度も見かけたことがある。が、完璧超人に昇格する奴はいなかった。
これは面白い、と二人に近づく。
「ようこそ! 超人墓場へ」
おどけて言えば、ミラージュマンは少し顔を顰しかめ、女の超人は私に視線をやった。
「ミラージュマン、この方は?」
「私と同じ完璧超人始祖で」
「おっと、ミラージュマン、自己紹介なら自分でする」
彼を止とめて、女超人と向き合う。
「私の名はペインマン。完璧超人始祖“
伍式”である」
「初めまして、私の名前は……」
女超人は頭を下げつつ、名を名乗った。
じっくりと観察するが、ミラージュマンの判断は間違っていないように思える。
鍛え上げられた肉体は、他の下等超人達と違うのがよく分かる。
女性ならではの柔軟性、も持ち合わせているかもしれない。
久しぶりに身体が疼うずく。女超人とスパーリングを行った経験もない。
一つ手合わせをと思うが、ミラージュマンとの試練を終えたばかりだ。それは酷だろう。
「どうだ、ミラージュマン。私が案内を引き受けてやろうではないか」
「それは助かる。では頼んだ」
ミラージュマンは本来の持ち場である、“
黄泉平坂”へ戻って行った。
女超人と二人になり、彼女の名を呼んだ。
「では、案内をするとしよう」
「よろしくお願いします」
あくまで完璧超人達は対等である。
が、あやつが一番上、その次は我ら完璧超人始祖、完璧・無量大数軍……とピラミットはある。
彼女はそのピラミッドの下。果たしてどこまで上に上がれるのか。
それとも下のままなのか、久しぶりに退屈しなくて済みそうだ。
「何故、おまえは完璧超人になりたいと思った?」
今まで仲間になってきた完璧超人には、なるべく聞くようにしている。
そこに我らの理念は通じているのか、傲慢な考えを持ち、出て行った奴もいる。
見極めなければならない……。
「私は噂で完璧超人になれば永遠の命を手に入れられる、と聞きました。その噂は本物だったわけですが……、超人の寿命は短い。いくら超人墓場がある、といっても老いには勝てません。私は自身の一生をかけて、性別を超えて強さを手に入れたいと思ったのです。永遠の命を授かれば、男よりも女の方が強くなる、かもしれない、いや、逆転してやりたい、のもあります。超人界は女だからと差別されることも多かったので」
「ほう……」
性別、か。
元々、男と女では身体の作りは違う、超人だった、としてもだ。
それを乗り越え、いや、逆転したいとは、面白い。
「テハハ、いいじゃないか。超えてみせるといい」
「はい、頑張ります」
「テハハ」
これは面白い、面白いぞ。
女超人である彼女がきた事により、新たな風が超人墓場に吹いてきた。
◆ ◇ ◆
彼女は努力家だった、そして、性格もいいときている。
純粋にどう強くなるか楽しみだったのだが、完璧超人達の中で恋情という不必要な感情を持つものが増えたのも感じ取っていた。
『種に交わらば、種にあらず』
あやつの格言だ。
知らない奴はいないであろうに、いや、今の完璧超人達は知らない奴もいる、のか。
これは由々しき事態だ。
完璧超人始祖達で会議を行い、恋情などとくだらん感情を持ったものは、一定の猶予を与えてからの追放と定めた。
が、猶予を与えているというのにも限らず、恋情とは厄介な感情らしい。
完璧超人始祖になってから、私はそういった類の感情を捨て去った。
あったのは遥か昔……いや思い出せない。記憶にない。元々持ち合わせていなかったのかもしれない。
しかし、このままでは……よくない。
勿論恋情などという感情を持ち出す奴等が悪いのは分かっている、が……生物の本能、も作用しているのかもしれない。
それならば……。
◆
「手合わせをしよう」
彼女を呼び出し、告げると驚いた顔を見せた。
「いいのですか?」
「さあ、リングへ上がってくるといい」
先にリングへと着地する。
彼女と初めて手合わせをする事になる。
実力、器量を再確認し、満たない、また、男以上に強くはなれまいと判断したら、その時は……。
私の心の内など知るはずもない彼女は、一つ深呼吸をしてからリングへと上がってきた。
「手加減はなしだ、いいな」
「はい、お願いします」
彼女と対面して、身構える。
さあ、お手並み拝見と行こうじゃないか!
先手を譲るようにすれば、蹴りをいれてきた。が、ちっとも痛くも痒くもない。
「ッ!」
「テハハ! そのような力では、男を越えるなど無理であろうなー!」
タックルを交わし、彼女の身体が吹き飛ぶ。それを追って、見本を見せるように腹へと蹴りを入れた。
「ぐはっ!」
「蹴りとはこうやるものだ」
一度、リングへと叩きつけられた彼女だったが、すぐさまに身体を起こしてきた。
「はーっ!」
がっ、と抱きついてきて、ギリギリッ! と、腰の辺りを締め付けてきた。
私のエアバックを割るつもりなのだろう。
だが、無駄だ。
「残念だな、私の身体は“
緩衝材”で出来ている。一つも割ることはできまい」
「やってみなきゃ、分からないッ!!」
「ほう」
締め付けが無駄だと判断したのか、距離を取り、次は拳を突き出してきた。が、私の緩衝材は割れることがない。
当たり前だ。
「何億年と生きてきたが、割ったものはいないわーッ!」
彼女の頭部に蹴りをいれ、ぐらついたところを見逃す私ではない。
自身の身体を柔らかく曲げ、両手で両足を掴む。
「ファイヤーボールプレス!」
「きゃあっ!」
その悲鳴にどきり、とした。
いかん、これがいかんのだ、これが恋情を引き立てる要因となっている……!
「残念だ、酷く残念だ」
この私も乱される可能性があるのを無視はできない。
彼女の首を掴み、持ち上げる。
「何、を」
粛清、を決めた。
他の奴らには何も言わせまい。彼女が死ねば、恋情などくだらない感情も消え失せるだろう。
「お前の完璧超人になる動機は素晴らしかった。男と女の強さを逆転させる発想は、聞いていて面白くもあった。が」
女は完璧超人に相応しくない。
それが私の判断だった。
彼女はもがき足掻あがくが、ゴキン、とした音を立てた後、静かになった。
「退屈しなくて済む、と思ったのだがな」
やれやれ、とため息をつく。
彼女の首を離せば、死体がリングへと転がった。
鬼共に死体の処理を任せ、自室へと戻った。
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