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02

本日7月25日は夏祭りである。
夏休み1日目、待ちに待っていた夏祭り。
本日はカラッカラの晴天で天気にも恵まれ今日は気分がよかった。
神楽ちゃん達とは祭りの開催地でもある神社の一番近くの本屋で合流する事になっていた。本屋から神社は歩いて5分もないし、祭りの日に本屋に行く人もそういないだろうから本屋で待ち合わせすることになっていた。
そろそろ準備を始めようと立ち上がり化粧台の前に向かった。普段から化粧っ気のない私は久しぶりに化粧をする。そもそも学校はあまり化粧をして行く所ではないと思っているからだ。だからといって休日化粧をバチバチにするのかと言われればYESではなかった。休日はいつも薄らアイラインを引いて、アイシャドウも薄くて目立ちにくい茶色を使ってグロスも元の唇とあまり変わらない色をつけていた。ほんとにメイクしてるかどうかよく見ないとわからない程度だった。でも、今日はお祭り!!!ちょっとぐらいお洒落したい。だってせっかく浴衣も着るのに!!
と言ってもケバすぎるのはあれなのでアイラインはいつものように薄く。アイシャドウはピンクにして見たが薄い淡いピンクした。今日は軽く頬にチークものせてみる。そして、唇だけいつもとは違う赤い口紅を塗る。化粧をし終わり鏡に映る自分を見つめる。少しいつもとは雰囲気に違和感を覚えるが浴衣を着れば違和感もなくなるだろう。
そのまま今度は髪に手をかける。髪の毛は迷った挙句、ハーフアップのように髪をわけて上の髪はお団子にする事にした。お団子を作り終えたらお団子に黄色い花のついた簪を差した。
その後私は、ハンガーにかけてあった浴衣を手に取る。今年の浴衣はオレンジ色でそのオレンジの生地にはピンクと黄色と白のようなの小花が散りばめられている。その浴衣に腕を通し前をしめ、赤い帯で縛る。なんやかんや準備をしている間にそろそろ家を出なくてはならない時間になっていた。私は、慌てて赤い巾着に携帯と財布と家の鍵をつめて家を出た。私の家から本屋まで歩いて行けない距離では無いので私はコツコツと歩いて本屋へ向かう。周りを見れば今日お祭りに行くであろう浴衣を来た人もちらほらと歩いていた。周りの空がじわじわとオレンジになっていく中私は、待ち合わせの本屋についた。本屋の前では既に浴衣を着た神楽ちゃんとお妙ちゃんが立っていて。
『神楽ちゃん!お妙ちゃん!』
と手を振りながら私は駆け寄る。
「夏美!可愛いアル!!」と一目見た瞬間神楽ちゃんはお世辞にも褒めてくれた。「とっても似合ってるわよ。」とお妙ちゃんも褒めてくれるのでなんだか照れくさくなった。
『神楽ちゃんとお妙ちゃんも可愛い。』
と私は思ったまんまの感想を伝える。
お世辞抜きに2人は可愛い。神楽ちゃんはサーモンピンクの髪を2つに縛り、ピンクでうさぎの模様が描いてある神楽ちゃんらしい浴衣を着ていてとっても可愛い。お妙ちゃんは髪をひとつにまとめてお団子にして、淡い水色の生地に薄い紫色の紫陽花柄の浴衣を、これもまたお妙ちゃんにすごく似合っていて綺麗だった。
「当たり前ネ!!私が可愛いの当然ヨ!」
と神楽ちゃんはいつものように言うが何となく照れた顔をしていたので本当に可愛いなと思った。
そのまま私達は神社に向かって歩いた。
神社に近づくほどガヤガヤとした楽しそうな声が大きくなる。神社にたどり着くと出店が沢山並んでいて、ところどころに真っ赤な提灯が灯されていてとても綺麗だった。
「やっほーい!イカ焼き食べたいアル!!」
と神楽ちゃんが興奮気味に声を上げるのを、見て思わずくすくすと笑ってしまった。そのまま私達3人は屋台を巡った。色々食べたり金魚すくいをしたり、(2人とも意味が割らないぐはい上手かった。)ほんとに今日来れてよかったなーと思いながら3人で回っていると「げっ!」と言いながらお妙ちゃんが立ち止まるので何かと思って神楽ちゃんとお妙ちゃんを見た。
「姉御どうしたアル?」
と神楽ちゃんが尋ねると、お妙ちゃんは静かに前方を指差した。指の先の方を見ると射的屋さんがあった。射的がどうしたのだろうか?と射的屋さんをよく見ると見慣れた人達がいた。
「あのくそゴリラ。」
とお妙ちゃんが呟くので思わず苦笑いをした。そこには射的をする近藤さんと土方くんと沖田くんがいた。3人とも夏休みなのに制服を着ていて、なんで制服?と思ったが、あぁ部活の帰りに寄ったんだろうな。と1人で自己完結した。
「神楽ちゃん、夏美ちゃん少し引き返しましょ。」
とお妙ちゃんがすごい圧をかけて言うので私も神楽ちゃんも無言で頷いた。そして、3人で回れ右をし、その場を立ち去ろうとすると
「あっ!!!!お妙さーーーーーん!!!!こんな所で会うなんて奇遇ですね!!!!!」
と近藤さんは私たちに気がついたようでこちらに向かって走ってきた。その瞬間隣から嫌な予感がしてふっと隣を見た瞬間お妙ちゃんは近藤さんに飛び蹴りを食らわしていた。「ゴブッ!!!!!」と近藤さんが呻き声をあげて倒れ込む。いつもの事なのだがこの光景は全く慣れなくていや、慣れることではないのだろうが、とりあえず私は、慌てて近藤さんに駆け寄る。
『だっ大丈夫ですか?』
と声をかける。
「あぁ、いつもすまないね夏美ちゃん。」
と近藤さんはガハッハと笑いながら立ち上がる。とりあえず元気なのを確認し私は、安心した。
「てめぇなんで祭りなんか来てんだよ!?!あぁん!?このクソゴリラが!!」
といつものようにお妙ちゃんは近藤さんに罵声あびせる。それについつい苦笑いをしてしまう。
「いやー、部活終わりにね。息抜きで来てたんですよ。」
と近藤さんは罵声をもろともせずに答える。あぁ、やっぱり部活終わりなんだ。大変だなーと思っていると、
「なんだヨ。どうせ姉御が来るの知ってて来たんだろこのクソゴリラ。」と神楽ちゃんが言う。それを聞いた近藤さんは「確かに来るのは知ってたけど...。」とか呟いてたのを私は、聞いてないふりをする事にした。
「近藤さんそろそろいい加減にした方がいいんじゃねーか」
と近藤さんの後から声がしたので近藤さんの後ろを覗き込むと近藤さんを追いかけてきたであろう土方くんと沖田くんがいた。そんな土方さんに対してお妙ちゃんは
「ちょっと、土方さんちゃんとこのゴリラ見張ってて貰わないと困ります。」
とお妙ちゃんは土方くんを責め出した。そんな土方くんとお妙ちゃんを見て近藤さんは
「お妙さん!浮気ですか!!この近藤勲がいるというのに!!!」
とまたお妙ちゃんの方に懲りずに向かって行くのでまたボコボコにされていた。
そしてその隣では何故か
「チャイナてめェー浴衣似合わねぇーんだから着るなよ。」
「なんだとこのくそサドが!!!」
と沖田くんと神楽ちゃんもいつものようにけんかをしていたのでなんでそうなるの!と思いながらため息をついたと同時に隣で私と一緒にため息をついた人間がいたのでそちらを見ると頭を抱えた土方くんと目が合った。
「お互い大変だな。」
と真っ当な同意を求められたので『うん。』と同意するしかなかった。
「つーかお前も浴衣とか着るんだな。」
と土方くんが言ってきたので『うん。やっぱり意外だった??』と質問すると
「まぁ、正直意外だった。」
と言われたのでやっぱり地味な私がめかしこむのは意外なのかなー、と納得していると。
「まぁ、あれだ似合ってるぞ。」
とまさか土方くんにそんな事言われると思っていなかったので思わずビックリしてしまったが、褒められたことは素直に嬉しかったので『ありがとう』とお礼を言った。すると
「死ね!土方!!!」
といつの間にやら神楽ちゃんとの喧嘩を終えた沖田くんが土方くんにタックルをした。
「おい!テメェ!総悟!何すんだよ!」
と流石の土方くんも沖田くんに怒るが沖田くんはどうともせず「調子乗んじゃねーやィ!土方コノヤロー」とさらに殴りかかる。それを見ていた神楽ちゃんが
「先を越されたからってサドもまだまだ子供アルな。」
といつの間にか買っていたりんご飴を頬張りながら言うので、『先を越された??』と聞くと「まぁ、知らなくてもいいことアル」と神楽ちゃんが言うのでそれ以上聞くのはやめた。そのまま神楽ちゃんと一緒に喧嘩をしている土方くんと沖田くん、お妙ちゃんに一方的にやられている近藤さんを横目に少し道を外れた。
しばらく神楽ちゃんと話しているとボロボロになった近藤さんと清々しそうなお妙ちゃん、喧嘩を終えた沖田くんと土方くんがこちらに来た。
「そろそろ花火の時間ね」と何事もなかったようにお妙ちゃんが言うのでつい『あっ、はい。』と答えた。
「お妙さん!花火が良く見える場所知ってますよ!」と近藤さんは自分の胸板を叩いてお妙ちゃんにアピールする。お妙ちゃんももう何か言うのもめんどくさくなったのか何も言わないのでとりあえず6人で花火を見る事になった。
近藤さんが案内してくれた場所は神社の細道で一通りもなく空も開けていて確かにすごくいい場所だった。「ゴリラなかなかやるネ!!」と神楽ちゃんは近藤さんの背中をバシバシと叩く。そんな様子を見て思わず笑っていると沖田くんと目が合った。がしかしすぐに目を逸らされてしまった。最近よく目を晒されるなー、と思いながら考えていると、いきなり大きな音が聞こえたので空を見上げると夜空一面に花火がバンッと咲いていた。
「うっひょーー綺麗アル!!!」と喜んでいる神楽ちゃんを横目にほんとに綺麗だなと思いながら空を見ているとふいに沖田くんが私の隣に立っていた。花火の音が大きくて沖田くんが隣に来たのに気が付かなくて少し驚いたが特に気にすることもなかった。そのまま皆が花火に夢中になっていると隣の沖田くんがグイッと私の右耳に顔を寄せる。いきなりの事で『どうしたの?』と声をかけようと口を開いた瞬間に
「浴衣すげぇー似合ってる。」
と小声で呟かれた。
思わずブンッと沖田くんの方を向くと沖田くんは既に花火を見ていてこちらを向いていなかった。先程の土方くんの時もそうだが男の子に褒められるのは少し気恥ずかしかったが素直に嬉しかった。でも何故耳元で呟かれたんだろう?と疑問ではあったが多分花火の音が大きかったからであろうか?と1人で納得し私もお礼を言おうと沖田くんに向かって背伸びをし沖田くんの左耳に顔を寄せ
『ありがとう。』
と伝えると沖田くんは左耳を手でガバッと抑えながら先程の私のようにガバッと振り向く。暗がりなのであんまり表情はわからなかったがきっと驚いているのであろう。そんな彼を見て思わず笑ってまた花火を見ようと空を見上げた。


りんご飴の様な顔をしていたのを私は知らない

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