20241110
エルヴィンが兵士長室を出てすぐのところで、小さな壜と格闘する部下がいた。よほど集中しているのだろう、後ろから近づくエルヴィンの気配に気がつかない。
「飴玉か」
奪った壜を持ち上げ、空へと翳してみる。壁に等間隔で設置されているロウソクが中身を照らし、さまざまな色の丸がきらきら転がった。
「返してください」
目線をおろすと、壜の向こうに透けるナマエはエルヴィンをきつく睨んでいた。精一杯の反抗。虐めてください、と言うみたいな表情でもある。少なくとも、エルヴィンにとってはそう見えた。
「おいで。開けてあげよう」
兵士長室と団長室は近い。身をひるがえして自身の執務室に戻ろうとする、と。
「返して……!」
ナマエが声を荒らげた。先回りするように、執務室になど行かせない、絶対行かないというみたいに、小走りでエルヴィンの正面に立つ。
「自分で開けられます!」
「どうかな。ずいぶんと手こずっていたようだが」
目の前の女が伸ばした指先は、なにに触れることもできない。空気だけを勢いよく掻き、振り下ろされる。エルヴィンは高い位置に上げた壜をしっかり持ち直した。
「返してほしいか」
「当然です、それはわたしの」
「リヴァイに貰った大事なもの=H」
「……、」
ふう、ふう、と乱れた呼吸は全力疾走でもしたあとのようで、堪きれずに嗤えばナマエが怯えを滲ませる。そんな反応をされては、逃がしたくなくなってしまう。
「ついてきなさい」
「……嫌です」
「返して欲しければどうすべきか、お前はもうわかっているだろう」
ナマエを何度も可愛がり、酷く泣かせた執務室はすぐそこだ。
ついに震えはじめた姿を眺めれば、酩酊するような興奮が背筋を這っていく。こんなに怯えて可哀想に、と思ったが、それ以上に愛しくて、エルヴィンはそうっとナマエの頬を撫でた。