20241110
リヴァイはデスクを片付けた。今夜の執務がようやく終わったところだった。重たく粘ついた疲労感に、目を数回しばたたかせる。
ソファでは、リヴァイが待てをした女がちゃんと待っている。その手にはひとつの壜。リヴァイが渡した、ミットラスでの土産物だ。中身はただのクッキーだけれど、うすべったいジャムが中央についている。甘美を煮詰めたような色の。
「ふん! ふんっ……!」
ナマエはふたを開けたいらしい。が、開かないみたいだった。姿勢を正し、なんとか力を込め続ける女の顔は険しい、唇までとんがっている。
俺に任せろ、と。ひとこと言ってやればいいのだけど。リヴァイはそうせずに頬杖をつき、ナマエをまじまじと眺めた。もれ聞こえてくる、ふん、という掛け声は無意識だろうか。
「は……」
一生懸命な姿が可愛くて、おもわず笑みがこぼれた。瞬間、ナマエがパッとリヴァイを仰ぐ。
「兵長! 執務は終えられたのですか?」
「ああ。お前はソイツの、」
「ふたが開かなくって」
「らしいな。面白ぇツラしてたぞ」
一部始終を見られていたと知り、ナマエの顔が青ざめた。次に羞恥からだろうか、赤く染まる。ふんふん言っていたということは、秘密にしておいたほうがいいだろう。
「どうせ変な顔です……」
「そういう意味じゃねえよ」
「じゃあどういう意味ですか……」
「さあな」
リヴァイもソファに、隣に腰をおろした。ほらやっぱり、としょぼくれるナマエから壜を受け取って固いふたをはずせば、密封されていた菓子屋の香りが一気に浮き上がる。甘いにおいは数ある記憶の合間を縫い、リヴァイのとりわけ深いところに染みこんでいった。
「わ……兵長?」
ナマエのあごを、くだものよろしくわし掴む。そしてリヴァイは。
「おら、口開けろ」
「へ?! じ、自分で食べられま、ふ、」
ぽっかりひられたナマエの口内へ、まずクッキーを放りこんだ。ジャムがついてしまった指先は、このあとでいい。