20241112







 キッチンで壜のふたをひねり続ける女の姿に、リヴァイはそろそろ苛立ってきていた。背後から覗きこむとラベルにははちみつの文字。傍らにはティーポットまで出ている。

 そういえばこのあいだ、ナマエはレンタルショップへ行ったついでに寄った書店で一から学べる!紅茶入門!≠ニいう雑誌を立ち読みしていた。その帰り、スーパーで壜詰めの蜜を買っていたかもしれない。紅茶に入れるといいらしいんです、などと言って。

 リヴァイ以上に美味しい一杯を淹れてやる。そんな意気込みを最近のナマエからはひしひしと感じ、面倒臭いというのが正直なところ。

 はちみつの味を想像する。とたんに胃がべたへたしはじめ、泥を飲んだみたいに重くなった。でももしも出されたら、やはり口をつけるしかないだろう。エルヴィンは彼女の前で、味覚の違いを巧妙に隠しているし、ナマエもそれを信じきっているし。さらには美味しいと笑うエルヴィンを愛しているようだし。

「貸せ」
「あっ」

 ついに我慢の限界がきた。壜を強引に奪い取り、驚くナマエをよそに体温の移ったふたへ手のひらをかぶせる。
 かぱ、と間の抜けた音がして、ふたはあっけなくはずれた。まさかそんなはずない、とわかっていながらも、こいつはふざけていたのかとわずかな疑念が生じる。人間と吸血鬼とを隔てる、途方もない力の差があらわになっただけだとすぐに気づく。

「ありがとうございます」

 ナマエのほうは気づいていないか気にしていないのか、単に男女の力差だと納得したか、ただ微笑んだ。
 これがエルヴィン相手なら、違う反応をしたのだろうか。考えた瞬間、胸のあたりに違和感をおぼえた。リヴァイはいつもどおり返事もせず身をひるがえし、リビングへと戻る。苦しくて、心臓を握るみたいに服をぎゅっとわし掴んだ。
 ナマエに関わると名を知らない感情が増えていく。だけどすべては結局、元を辿ればひとつである気もした。

 ふり返ると、紅茶の用意が開始されている。近づきたい、と。触れたいと、ナマエをわけもなく眺めているうち、ふいに思った。

 この夜以降。
 家中のそこかしこにあるふたを閉める際、リヴァイは力加減にひどく悩むようになってしまった。ナマエがただの非力な人間だということを、毎回、思い出して。







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