20241111







 会議が予定より一時間以上長引いた。有意義な時間であればまだよかったが、あっちこっちとまとまらねえ、クソほどの意味もない議論だった。とはいえ今ざらついた気持ちを抱えているのは、そのせいじゃない。

 自室に戻って歩き回る。俺の部屋で待ってろ、と伝えておいた女の姿をようやく確認すると、そいつは浴室で何かに没頭していた。その何かはいったいなんだ? 俺より大事なことか俺がお前だったら居ても立ってもいられねえ、もし三十分以上もお前の帰りが遅れたら迎えに行く、っつうのにお前はどうだ、一人でも余裕みてえじゃねえか、出迎えにも来ねえしな……俺が居なくてもやっていけ、るんじゃねえのか、なあ。
 会いたいと思っていたのは俺だけか、

「オイ」
「あ! リヴァ……」
「何してる」
「……これ」

 と。ナマエが振り向きついでに差し出してきたのは小せぇ壜、今日の昼に俺が渡したモンだった。いつもの店とは違う、やたらと洒落た店で買った入浴剤だ。橙色の粉と謎の花が入っている。なんだったか、乾燥、させた花びら、だったか。

「それがどうした」
「ふたが開かないんです。湯船の準備しようと思ってたのに……この入浴剤を入れて」
「お前まさか、一人で入ろうとしてたのか? 許さねえぞ、何度も言ってるだろうが」
「違いますよっ! 兵長が戻ってきたらすぐ入れるようにって、その、一緒に……」

 こいつも。……離れてたって、俺のことは頭にあるらしい。会いてえ、会いてえ会いてえ会いてえ会いてえ、と。思っていたのは同じだったんだな。

「……ならいい」
「わっ!」

 目の前の体を持ち上げ、担いだまま寝室へ連れていく。ベッドに腰掛けたあとはナマエを膝の上に乗せた。向かい合って抱き締め、首筋に鼻をうずめるとくすぐったいと笑う。お前からは俺と同じ匂いがする、……そりゃそうだよな。ゆうべも今朝も、お前は俺、と。

「貸せ」

 回した腕で壜を受け取り、開けようとすれば、後ろを振り返るようにしてそれを見たナマエとの間に隙間が生まれた。その距離、が嫌で、きつく抱き締め直し、再開する。

「ったく……力を必要とするようなこと、お前はしなくていい。次からは俺を呼べ。今回みてえなときは待ってろ」
「でも」
「でもじゃねえ、ほら、開い、……は、お前、手のひら赤くなっちまってんじゃねえか」

 開けようとし続けたせいだろう、可哀想にな、

「念のため冷やし……」
「もう、兵長大丈夫です、これくらいなんともありません!」
「大丈夫なわけあるか。お前はここにいろ、今冷やせるもんを用意する。オイ動くんじゃねえ。そうだ、おとなしくしてろ。湯を浴びるのはそれから……いや。今夜は入らなくていい」

 熱い湯に滲みでもしたら、つらいに決まってる。

「……湯を浴びなくていいなんて。いつから綺麗好きじゃなくなったんですか? 兵長……」
「あ? バカ言え、今も充分綺麗好きだ」

 湯浴みしてねえ、汗をかいている。そんなんでも許せるのは、相手がお前、だからだろうが。







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