兵長にさわってもらえなくなる/20241225
ここ最近、兵長の様子がおかしい。
「おやすみなさい」
「ああ」
今夜もふたりでお風呂に入って、ふたりでベッドに寝転がった。腕枕をしてもらいながら、季節の変化に伴い一枚分重くなった上掛けにくるまる。そのまま、白いトップスを寝間着にしているリヴァイ兵長の鎖骨あたりに鼻先をうずめた。わたしの髪がくすぐったかったのか、後ろ側でひとまとめにするみたいに掴むと、兵長はそのまますうっと流した。
ちら、と目だけで見上げてみれば兵長もこちらを見てきて、ん? というような顔をする。好きですと、口にはせず内心で思いながら抱きついた。ぽんぽんと頭を撫でられ、しばらくすると兵長の動きがなくなったから、もう一度見上げた。
輪郭に、つんとした鼻先に、ひき結ばれているうすい唇。全部が月明かりで蒼白い。閉じられたまぶたの先に伸びるまつげが、頬に長い陰を作っている。
視界のなかの兵長は、微動だにしない。早くも入眠してしまったんだろうか。
結局、今日も兵長は、わたしに求めてこなかった。これで何日目だろう。毎晩声も涙も枯れるくらいしていたのはちょっと前までのことで、近ごろはベッドに入ったらいつもこうして無垢に抱き合うだけ。
裸になるようなとき──たとえばお風呂のなかでも、なにもされない。いやらしい雰囲気にもならないし、手つきも一から十まで健全をいく。不健全なのはわたしの気持ちだけだった。
悶々と思考を働かせていれば、ゆっくり、兵長のまぶたが持ち上がる。視線が絡む。
「……もう寝ろ」
おきまりみたいに頭を撫でてくれる手つきは、やっぱり優しい。好きです、とまた無声で思いながら、さらに強く抱きついておいた。
「どうした」
私がしつこかったのかもしれない。うっすらひらいた目の奥、ブルーグレイが夜を反射している。彼のまなざしは優しかった。けれど「なんでなにもしてこないんですか?」「ヘンな気分になっちゃうのはわたしだけですか?」とは言えないまま、首を振る。
「眠くないのか」
「まだ、寝たくない」
「だったら……」
くっとあごが持ち上がった。片ひじをついて起きた兵長に、掬われて。唇をふに、と押し潰されれば、吐き出せなかった疼きが甘くしみこんでいくみたいだった。
このまま、さわってもらえるのかも……。なんて思っていると。
「お喋りでもするか」
「お、しゃべり?」
「そうだ。俺はもともと結構喋る」
知ってます。胸中で答えながら、つい笑ってしまった。兵長の腕に抱き寄せられ、胸もとに頬擦りすれば空気が揺れた。石鹸のにおいが漂う。リヴァイ兵長の。もちろん好きなにおいだ。
でも、普段は冷や汗すらかかない兵長の、汗ばんだにおいも好き。行為の最中にしか浴びられないあの色めいた香りも、いまみたいな淡くて優しい香りも、全部、全部が、とにかく大好きで仕方なかった。
ぴちぴちと鳥が鳴いている。膜みたいにうすいベージュのカーテンが、朝の陽光でいつも以上に白い。
寝起きのぼうっとする頭でしばらく窓辺を見つめたあと、兵長もわたしもゆうべから寝相を変えてないことに気がついた。結局一晩中抱き合ったまま、たくさん喋って眠ったようだった。
兵長を確かめればめずらしくまだ寝ていて、めったに見られない寝顔を堪能する。
「リヴァイ兵長……」
囁くと不安がふつふつわいてくる。たくさん触れてくれて、可愛がってくれて、大事に扱ってくれているのはわかるけれど、つきあっている相手に身体を求めてもらえないのがこんなにも怖いことだなんて、知らなかった。
最後にしたのはいつだっけ。至るところをさわられたのは、たしか──二週間以上も前、の、夜の日だ。
蒼白い寝顔を見詰める。リヴァイ兵長は、もう、私とするのに飽きちゃったのかもしれない。
あとで聞いてみなくちゃ。飽きたんだったら話し合わなくちゃ。と、思うものの、気持ちが冷めてきていると言われたら? なんて嫌な予感がないわけでもなく、私は今日も目をつぶった。リヴァイ兵長の、腕のなかで。一番大好きな、最も安心できる場所なのに、いまは無性に苦しくなってしまう、この唯一無二の居場所で。
でも、次に起きたときにはもう横にリヴァイ兵長の姿はなかったし、二度寝をしてみたって、甘い夢は見られなかった。なにひとつ。