リヴァイさんと別れたあとの話/20200330
もう桜が咲いているというのに、音もなく雪が降りだした。ナマエはひとりでゆっくり並木道を進む。
手のひらを差し出せば、落ちてきた結晶は一秒で溶けた。代わりに花びらが残り、それは少し濡れている。
地面はまだ見えているが、そのうち白く染まるだろう。降り注ぐ雪は一度の瞬きで見失うくらいに急いでいる。ひとりで歩く並木道はずいぶん広く感じた。
水溜まりを見て、ああ少し前まで雨が降っていたな、と思い出す。そして自分がいつの間にかうつむいていたことを知った。
「……きれい」
ナマエがあごをわずかに上げてみれば、冬の色とともに舞うたくさんの春の色。ひらひらと、はらはらと、別れを惜しむみたいなふたつの色が重なりあって、ひとつになる。
リヴァイにも見せてあげたい、と、思ったものの、彼がなにかを言う姿は浮かばない。きっとかすかに目を細めてしかめ面をやわらげるだけだ。
リヴァイはいつもそれで笑ったつもりになっていて、でも実際はたいして笑えてなんかなくて、なのに彼が安らいだときは、いつでもすぐにわかった。
この景色を見たらそうしてまた、不器用に笑うのだろう。
となりで見たいと思った。以前のふたりのように寄り添って。
ひとりきりで歩く並木道はずいぶんと広い。
水溜まりにぷかぷか揺れる花びらを見て、再びうつむいていたと気づく。
顔を上げなくちゃ。冬が終わるから。春がくるから。
もう桜が咲いているというのに降りだした雪は、あたりからどんどん音を奪う。静かにちょっとずつ、ナマエのかなしみも奪ってくれている気がした。
重なりあったふたつの色は交じりあうことはせず、あっさりと地面で離れゆく。だけどどうしてかさっきよりも穏やかな心地がして、もう、並木道を抜けるまで足元を見ることはなかった。
季節の境目を、ナマエはひとりで、ゆっくりと進んだ。