お花見の話
「ほら、わりと楽しいでしょ」

桜を見に行こう。乙女が提案したそれに、小次郎はあまり気が乗らないようだった。

「人を斬るほうが楽しいよ」

初めはそう言っていた彼だったが、それとなく浮かれているように乙女には感じられた。それを受けての、冒頭の一言である。

「うーん、よく分かんないなあ」

団子を買ってもぐもぐと頬張る小次郎。こうして見れば、意外とかっこいいんだけど。乙女は小次郎を見つめた。戦場での鬼のような暴れっぷりが嘘のようだ。

小次郎は人として大切な何かが抜け落ちている気がする。抜け落ちてしまっているだけで、もう一度入れ直せば人になれるような気がするのだ。彼女はそう思って、その手助けになりたいと思って彼と一緒に居る。花見をしようと言ったのもその一環だった。

「でも、団子は美味しいでしょ」

「それはそうだけどね。美味しいお茶も飲めたら良かったのになあ。ここじゃ点てられないし」

「小次郎のお茶、また飲みたいなあ」

服が汚れるのも構わずに、乙女は草っ原に寝転がった。桜の木が視界に入る。青空が眩しくて、桜の花をきらきらと照らしていた。

私はお茶を点てられないけど、小次郎は簡単に出来ちゃうんだなあ。

やっぱり、本当は良い所のお坊ちゃまだったりするのかな。乙女はそんなことを思って、落ちてくる花弁を眺めた。

「桜の花はさ、良く分かんないけど」

小次郎も乙女の隣に体を横たわらせた。二人の目がかち合う。乙女は微笑みながら、彼の言葉の続きを待った。

「君の嬉しそうな顔を見れるのは、良かったと思うよ。君は綺麗だからさ」

可哀想だから、綺麗に斬ってあげないといけない。一種の強迫観念のようなそれは、どうやら乙女には適用されないらしい。

「うん。……ありがとうね」

人間は皆可哀想な生き物だ。乙女も、小次郎も。それでも、皆生きている。皆、見えないだけで心は美しいんだ。

この桜のように。

いつか小次郎がそれに気づいてくれたならば。乙女は安心して眠れるような気がした。それこそ、桜の花のように散ってしまっても構わないのだ。それまでは小次郎と共に居ようと、強く思うのだった。

(20240429)
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