厭わなかった夜
どさり、と鈍い音を立てて倒れる男。一刀両断、その太刀筋は見事と感嘆するほかない。
「……宗矩さん」
宗矩が抜刀するのを初めて見た。目にも止まらぬ速さで、彼はもう刀を鞘に納めている。本当に斬ったのだろうか? けれども倒れている男は血をとばどばと流しているから、真実なのだろう。
「お嬢ちゃん」
「は、はい」
不殺を誓っているのに、こんなこといいのだろうか。乙女は宗矩の太い腕にしがみついて、体の震えから逃れようとする。
「おじさん、まだまだだねェ。怒りに任せて斬るなんて、この先有り得ないと思ってたんだけどねェ。……どうしても、ねェ」
頭をぽりぽりと掻くその間抜けな仕草を見ていると、自然と乙女の体から力が抜けた。
「そう、そうだよお嬢ちゃん。これは拙者の問題だから、何も気にしなくていいんだよォ」
「……はい」
不殺の誓いを破るほど、自分のことを好いていると言っているのだろうか。乙女は宗矩の体に引っ付いたまま、首をぶんぶん振って頷いた。
(20240805)