◆慣れない口説き方

(どうやら君に惚れたようだ…。)

そう自覚してしまったら最後、私は君が欲しくてたまらなくなった。
どうしようもないほど君がほしいのだが、女性を口説くことはあまり得意ではない。

「君とこうして話しているとどこか安心できる。まるで家族のような隔たりのなさがある。君の魅力だよ。」

私としては口説いているつもりだったが、君の反応はいまいちだった。何がいけなかったのかと悩みつつ、即座に付け加える。

「君のような女性は男が放っておかないだろうな。」
「ふっ、ははっ、まさか。そんなことないですよ!」
「そうか?それは意外だな。」

…ということは、今言い寄られている男はいないということか。情報が正しければ恋人はいない。つまり、彼女は完全にフリーということだが、相手を隠しているとも限らない。…この点は白黒つけたいところだが、あまり立ち入りすぎては警戒されてしまう。

「だが、君がその気になれば狙った相手は簡単に落ちるだろうな。」
「そんな。買いかぶりすぎですよ。私、本当にモテませんから。団長もさっき言われましたけど、家族っぽくて女性に見れないんだそうです。妹とか姉に思えるとよく言われますし…。」
「そうなのか。私はそんなつもりで言ったわけではない。安心する相手として例えただけだ。誤解しないでくれ。」
「はい。団長こそ、団長が気に入った人なんてすぐ落とせそうですよ?」
「それがそうもいかなくてな。」
「あ!てことはいるんですね!好きな人!」
「…まぁな。」

驚いた顔をした君は、どんな意味で驚いたのだろうか?少しでも焦ったり傷ついたりしてくているのだろうか?じっと観察してみるが、分からなかった。ただ、

「気になります。」

とだけ笑う。ここで、君だよと言えればいいのだが、まだ確信がない以上何も言えない。なかなか、頭を使わされる展開だ。巨人相手なら何とかなるが、女性相手は経験がなくて困る。瞬時にあらゆる回答と反応を予想した結果、理由を聞いてみることにした。

「なぜ、気になる?」
「え。だって、あの団長が好きになる人ですもん。どんな人かなぁって思いますよ。きっと綺麗な人なんでしょうね。」
「綺麗というか…可愛い方だな。」
「ほぉ。どんなところが気に入ったんですか?」
「安心できるところだ。他にもあるが、一番は何かと聞かれれば、安心感だ。まるで家族のように安心出来る存在で、そばに置きたいと思っている。」
「…、ん?」

鈍くはない君は何か気付き始めたようだ。首を傾けながら、じっと私を見つめ返す。これは油断できない。この瞬間で全てが決まる。君の瞳を見つめ返しながら君の言葉を待つ。君は少し冗談めかしに言った。

「家族みたいで安心出来るって、私も言われましたよ?」
「そうだな。覚えている。」
「?」
「そろそろ気づいてくれてもいい頃ではないか?」
「え。」
「私が好きな女性は君だ。」

目をまん丸くして私を見上げる。私は決してそらさずに君を見つめ続けた。君はそっと私から目をそらすと、口元を手で押さえる。何とも言えない表情をしていたが、口元を緩んでいた。

「…うそ。」
「嘘ではない。」
「…そんなこと言われたら、意識しちゃいますよ。」
「ぜひそうしてほしい。」
「っ。」

照れたような顔で首をかしげる仕草がたまらなく愛おしかった。こんな歳でも好きな女性を前にすれば脈が早まる。

「その、良ければ、前向きに検討してほしい。私と付き合うということを…。」
「…ふっ!会議みたい!」
「すまない…。我ながらかたい男だ。…その、このような場合何と言えばいいのか分からなくてな。」
「…とりあえず、前向きに検討してみます。」
「ああ、たのむ。」
「でも、検討のためには資料が必要になりませんか?」
「資料?…なんだ?何か用意すればいいのか?」

私のことを検討するためには、私の経歴などの個人情報や価値観など内面的なものをまとめれば良いのか?何を書けばいいのか聞こうとしたら、

「そうですね、とりあえず、…デートでもしませんか?」

彼女は照れたように提案した。なるほど、とうなづき、つられたようにどこか照れた気持ちになる。しかし、それでは格好がつかない。咳払いをしてごまかすと、では、と日程と日時を考えた。

…まさか、彼女からデートを提案をされるなんて、今朝の私は考えもつかなかった。しかし、ここで緩んではいられない。デートで幻滅されないためにも下調べをしなければ…。

これは、仕事以上に重大な任務だ。気を引き締めてかからねば、勝利は勝ち取れない。

end

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